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2009年9月

五十四.卒業式

「今年は寒いなぁ・・・桜咲くとか桜散るとか、まだまだ実感できなさそうだ」
 ちらつく雪の破片を目で追いながら、今井は隣を歩く友人につぶやく。
「どっちかって言うと、散ってるみたいに見えるしな」
 くっ、と笑って、近藤も空を見上げた。今井は思わず苦笑する。
「おいおい、縁起悪い」
「悪いもクソもないだろ、とりあえずセンターは終わったんだ」
「まぁそうだけど」
 一月中旬。偶然同じ大学を受けるのだと知った二人だったが。
「とりあえず試験中に自己採点した分には合格ラインだ。お前もそうだろう?」
「まあ・・・そうだなぁ」
 似たような返事をして肩をすくめる今井に、近藤はちらりと視線を送る。
「一応、第一志望だろ?」
「そうだな。ていうか、それ以外俺、受けないからな」
「・・・・・・自信満々ってところか。さすがだな」
 近藤の呆れたような言葉に、ははっ、と笑うのは、苦笑とも自嘲とも取れる。マフラーを口元まで上げるようにしてその表情を半分覆った今井は、その中で小さく首を横に振った。
「余裕がないんだ」
「は?」
「色々とせわしないっていうか。精神的にも色々と、さ」
 その瞳には、翳りが色濃く潜んでいる。けれど、と近藤は思う。
「それで東大一本なら世話ねえよ」
「ん・・・まあ、そうかな。お前に言われたくないけど」
「俺は私立も二つ受ける」
「慶応と早稲田が滑り止めか?しかも、受験真っ最中でも剣道部に顔出してるし」
「精神統一には俺にとって剣道が一番だ。勉強の邪魔になんてならねえよ。それに椎名・・・慈恩、が、如月のライバルになっちまったからな。ちょっとでもうちの部をハイレベルにしておきたかったっていうのもある。もちろん、大学に入っても続けるつもりだし」
 そこまで言って、大きく白い息を吐き出した。
「お前は・・・・・・執行部、いや・・・・・・椎名斗音・・・か」
 今井が瞠目する。近藤は軽く首をかしげた。
「いつからだ?あいつが来てねえのは。十二月にはもう来てなかったよな。副会長の長期不在は、うちの執行部ではかなり厳しいはずだ。うちは執行部で動いてるところが大きいからな」
 今井は言葉を飲み込む。それは肯定に他ならなかったが、近藤がそこまで気のまわる男だと思ってはいなかった。クラスが同じで親しかった頃は、剣道のことで頭が一杯の無骨な奴だったから。
「お互い、椎名には振り回されてるな」
 笑う近藤を、今井はああ、と納得して頷いた。そうか、慈恩つながりで事情を知っているのか。そんな今井の目線の前で、近藤が笑いを納め、それでもにやっとしたまま続ける。
「あと、伊佐治とも別れたんだったな。執行部も色々ごたごたで大変だったろう」
 思わず眉根を寄せた今井が、口をひん曲げる。
「何で知ってんだよ」
「アホかお前。全校で最も有名なカップルだぞ。情報なんてあちこちで飛び交ってる」
 やれやれ、と今井は溜息をついた。
「それくらい余裕がなかったんだよ。お互いにな。いいんだ、俺はあれ以上あいつを苦しめたくなかったし、あのあと斗音が大変なことになったって分かって、いっそよかったと思ったよ。あの時別れて」
 苦笑しながら近藤に理知的な視線を投げる。
「斗音のことで俺、頭一杯だったから」
「・・・・・・というと?」
「ん・・・・・・俺、あいつを会長にしたいんだ。俺が創り上げたものを、託すことができるのはあいつしかいない」
 はっきりと言い切る今井に、近藤は思わず険しい表情を顕わにした。
「それは・・・・・・可能なのか?藤堂が立候補するって聞いたぞ。もうすぐ俺たちは卒業だ。卒業したら、お前とはいえ何の権威もなくなる。そもそも、あいつは長期欠席で執行部の仕事をおろそかにしてるっていう印象が強いし、そうでなくても会長なんてきつい仕事、こなせるのか?あの身体で?」
 まるで立て板に水状態で、不可能の可能性を並べ立てる近藤に、今井は好感を覚えこそすれ、不快は感じなかった。誰もがそう考えていることは把握していたし、近藤が客観的立場ではっきり言ってくれるのはむしろありがたかった。
「さあなぁ・・・・・・一か八かの賭けだ。あいつが、間に合うかどうか」
「・・・・・・間に合う・・・・・・?」
「ああ。・・・・・・でも、きっと間に合う。あいつには慈恩がついてる」
 今井の言葉は、妙に確信に満ちていて、懐かしい後輩の名に一瞬心を捕らわれた近藤をいぶかしませた。けれど、今井はそれ以上言うつもりがないことを、近藤はすぐに悟った。ならば、と、腕時計で時間を確認し、人の悪い笑みを浮かべる。

「一人、待ち合わせしてんだが、一緒に仏頂面拝みに行かねえか」

 ただでさえも愛想の欠片もない表情が、予想通りの仏頂面になる。それを見て近藤は、おかしそうに今井を振り返る。
「な?」
 な、じゃねえ!と、心の中で近藤以外の二人は同時に叫んでいたが、互いにそれを声に出すほど子供でもなかったので、片やむっつりと黙り込み、片や目を瞠るにとどめた。
「どうだった、手応えは」
 訊かれて、瓜生が仏頂面のまま視線を逸らす。
「どうもこうも・・・・・・とりあえずやれるだけやった。それだけだ」
「自己採点は?」
「できるかよ。答えに確信もねえし、そんな暇もねえ。てめえらと一緒にすんな」
 今井は以前ほど瓜生に悪い感情をもってはいない。けれど、心の中に拭いきれないものがあるのは確かだ。
「・・・・・・どこ、受けるんだ?」
「・・・・・・かっ・・・・・・かんけーねーだろ・・・・・・」
 ありきたりの質問のつもりだったが、瓜生は口ごもるようにして更に顔まで逸らしてしまった。
「ま、センターの結果次第だよな。ところで、あれから何か変わったことあったか?」
 雰囲気を読んでなのか、さらりと流す近藤に、瓜生はちらりと今井を見てから、近藤に視線を移した。
「・・・・・・いや・・・・・・でも、もう数日で退院できるらしい」
「そうか。よかった。だとよ、今井」
「え?」
 突然話を振られて戸惑う今井に、近藤が二カッと笑った。
「知りたかったんじゃねえのか。椎名斗音の現状を」
「え?ああ、それは・・・そうだけど・・・なんで、お前が・・・?」
 その問いには、瓜生は押し黙ってしまった。近藤は苦笑する。
「色々事情があんだよ。こいつにも、な」
 気まずくなりそうな雰囲気だったが、近藤は意に介さなかったようだ。
「さて、じゃあ飯でも食って帰るか」
(えっ!?このメンバーでか!?)

 ぎょっとした二人は、強引に鍛えられた腕で背を押されながら、再び同時に同じことを心の中で叫んでいた。

   ***

 ぎょっとした慈恩の顔を、斗音は微笑んで見つめる。微笑んではいるが、その瞳には芯の通った強い光が宿っている。ほんのひと月前には、完全に消えてしまっていた、意志の光。
「・・・・・・本気、なのか?」
「もちろん」
 擦れた声ではあるが、それには揺るぎない強さがある。ようやく声帯を使ってもいいと許可が出て、斗音が音声にした言葉は、慈恩を困惑させた。
「俺にできるかどうかは分からないけど、やってみたい。・・・・・・その前に、当選するかどうかっていう問題があるんだけど・・・・・・いっぱい休んじゃったし、執行部にも沢山迷惑掛けたし・・・・・・」
 苦笑を、吹きぬける風に踊る髪が縁取る。病室の窓は開け放たれて、まだ冷たい風に侵略されている。すっかり綺麗に片付いた部屋の空気を、最後に入れ替えるためだった。
「・・・それ以前に、まだ手術して一ヶ月経ってないんだぞ?体力だってまだ・・・・・・」
 心配という気持ちをこれでもかと漆黒の瞳に浮かべながら、慈恩が口ごもる。斗音の希望を叶えてやりたい、という思いは、以前と全く変わらない。変わらないどころか、今はもっともっと強く、できる限り支えてやりたいと思う。けれど、今回ばかりはその過酷さを思うと不安でならない。そんな慈恩の前で、斗音は綺麗なカードを慣れた動作で開く。
「『卒業式の送辞にお前が間に合えば、可能性はある。こう言っちゃなんだけど、俺はお前に会長を継いで欲しい』」
「・・・・・・斗音・・・・・・」
 今井と氷室からのクリスマスカード。そこに何が書かれているかは、慈恩もよく知っている。慈恩宛の励ましの言葉も、綴られている。
「『俺はお前ならできると思ってる。お前に如月を託したい。これが俺の・・・如月の生徒会長としての、最後の願いだ』・・・・・・この言葉があったから、俺はこれまで治そうと思って頑張ることができた。俺だって、この一年・・・会長に就くことを考えなかったわけじゃない。今井さんと仕事しながら、色々教わってきたんだ。・・・・・・ほんとに、色々。だから、俺・・・選挙に出る」
 にこりと笑んで見せた斗音に、儚さはなかった。そして、慈恩にもクリスマスカードの文面を開いて見せる。
「慈恩にも、あるよ。選択肢が。・・・・・・慈恩は、どうするの?」
 慈恩は途方に暮れた。いろいろな物の狭間で板ばさみになって、身動きがとれなかった自分。今だって、自分のしたいことははっきりしている。斗音の傍にいたい。護りたい。それは変わらないのに、桜花にも大切なものができてしまった。彼らを切り捨てるのは、つらい。
『慈恩がもし、如月に帰ってくるつもりがあるのなら・・・・・・みんなが待ってる。お前がいてくれたら、これほど心強いことはないんだから』
(今井さん・・・・・・こんなところであなたのカリスマ性発揮しないで欲しい・・・・・・)
 一体どれだけの人間が、この強い言葉に逆らえるというのだろう。慈恩は長い指を、こめかみに当てて軽く押さえた。

「・・・・・・考えさせてくれ」

   ***

 事務所で巽の報告を聞き流しているかの如く、脇目も振らず、丁寧に銃の手入れを終えた安土は、手にしたものを立派なデスクの引き出しに片付け、鍵を掛けた。
「ふぅん・・・自白剤でも吐かなかったなら、本当に適当な売人から買ったのかもな。適当に売人知ってる時点で、今まで何回か道踏み外してるんだろうが・・・・・・」
 独り言のように言ってから、軽く舌打ちする。
「ルートに関わってるなら、芋づる式で潰してやれたのに」
 巽は思わず、その悔しさののぞいた表情に笑みをこぼしそうになって、慌てて顔を引き締める。こんな所で笑みでも浮かべようものなら、絶対にケチをつけられて叱り飛ばされる。ところが、どう見ても二十三、四の組長はじろりと上目で巽を射た。
「何がおかしい」
「えっ、いや、おかしくなんかないです・・・・・・!」
 慌てて否定するも、ふん、と鼻であしらわれた。
「表情筋が緩んでんだよ」
 本当に油断ならない。でも、巽にはまだ報告すべき事実が残っていた。
「すみません。それから、あの男ですが・・・ちょっと精神的にキているといいますか・・・ずっと妄想をつぶやいてるんです。たぶん、今の自分の状況すら、理解できていないでしょう」
 巽の言葉に、安土は少しだけ眉を上げた。
「へえ?なんて言ってる?」

「何、と言われても、ちょっと難しいんですが・・・・・・泣いてるのか笑ってるのかもよく分からないし、ただ・・・あの斗音、という少年のことを言ってるんだろう、ということしか」

   ***

 厳かな雰囲気の中、朗々と体育館内に響く、擦れた声。如月高等学校の、記念すべき第百回の卒業証書授与式。卒業生の前に立って、在校生代表で送辞を読み上げるのは、学校に復帰したばかりの、ほっそりした色白の少年。それを、全校の生徒は身じろぎもせず見入って、聞き入っていた。
「・・・先輩方が私たちの心に残してくださったものは、計り知れないほど大きな宝物です。この如月高校の伝統を引き継がれ、その重さをものともせず、更に発展させてこられた先輩方は、私たちの憧れであり、尊敬の的でした。特に、今年度の如月祭の大成功は、今井生徒会長初め、全ての先輩方の力と、アイデアの結晶でした・・・」
 静かで優しかった口調が、ふと止まる。あの、怒涛のように過ぎ去った日々の思いが胸に込み上げて、斗音はそれを押し殺すのに、数秒を要した。
 今井に弓削、武知、伊佐治。本当に頼もしかった執行部の先輩たち。如月祭で飛びまわっていた自分をフォローしてくれた徳本に、こんな病気持ちの自分を重宝してくれたバスケット部の先輩たち。団を力強く引っ張っていた近藤。・・・・・・そして、力尽きて倒れた自分に、不器用な手をそっと差し延べてくれた瓜生。
 脳裏に甦る、あの熱狂した熱い思いと、つらかった時に沢山たくさん支えてくれた人たちの温かさ。
「・・・あんなに充実した時間を・・・・・・先輩方と共有できたことは・・・本当に・・・幸せでした・・・」
(あ、ヤバイ・・・・・・)
 無理に続けようとしたものの、声がはっきりと震えるのを感じた。
「・・・・・・執行部の、一員と、して・・・それに、深く・・・関わることが・・・できたことも・・・・・・」
 そんな人たちとの別れ。それは、必然ではあるけれども。
(・・・・・・寂しい・・・・・・)
 ぱたり、と、送辞を綴った和紙が、零れた雫に濡れた。これではいけない、と斗音は自分を叱咤する。教師の間では、送辞はほぼ藤堂に内定していた。本来ならば副会長である斗音の仕事なのだが、それが無理であろうと判断されていたからだ。それが藤堂に告げられる直前に、斗音は執行部の顧問である伊藤先生に申し出た。自分にやらせて欲しい、と。今井の言葉に押されたからというだけではなく、この、卒業式という厳粛な行事で、三年生の残したものを引き継ぐ者の代表として、副会長として、最後の責務を果たしたかったのだ。
 斗音の震える声に、卒業生の幾人かがすすり泣きを始める。同じく熱い思いが胸を駆け巡っているのだろう。
「・・・・・・私は、本当に・・・本当に・・・・・・感謝しています・・・・・・」
 在校生代表だということはよく分かっていた。けれど、心配してくれた人たちに・・・もしかしたら、これっきり、二度と会えない人たちもいるかもしれない。その人たちに、伝えたいことが、あった。それを伝えるまでは、止まれない。涙の伝った跡を拭うこともなく、斗音は、すい、と顔を上げた。
「・・・インターハイの大事な場面で、発作を起こしてしまった時・・・先輩方は本当に温かく・・・こんな俺を、迎え入れてくださいました・・・。そして・・・途中から・・・体調を崩して・・・・・・執行部の仕事も満足にこなせずにいたのに・・・・・・それでも、いつも優しい言葉をかけてくださった今井会長・・・・・・執行部の先輩方。・・・どんな・・・・・・どんなお礼の言葉でも、この気持ちは・・・・・・言い表せないくらいです・・・」
 職員席の最前列・・・三年生担任として座っていた、礼服がちょっと窮屈そうな木下が、その隣の執行部顧問の伊藤にこそっと耳打ちする。
「あれ、こんな内容だったか?」
「いや・・・そんなこと、送辞には書いてないはずですけど」
 なるほど、と「プーさん」の愛称で親しまれる木下は、ヒゲ面でにんまり笑った。
「やっと帰ってきたなぁ、椎名」
 その意味ありげな笑みに、伊藤の方も納得気にうなずいて見せた。
「そうッスね。まさか、気管支喘息から悪性腫瘍に発展するとは思いませんでしたけど、卒業式までに復帰できてよかった。十一月下旬ごろから、やたら頻繁に体調を崩して休むから、何事かと思ったんですけど・・・」
「ほんとになぁ。俺、あんな危なっかしい奴、スタメンに使ってたんだな」
 苦笑する木下に、伊藤は肩をすくめる。
「それを言うなら僕もですけどね。でも、それでもあいつは使う価値ありでしょう?」
「もちろんだ」
「お二人とも。その椎名くんの、こんなに思いを込めた送辞を、聞き逃すおつもりですか?」
 一組担任の伊藤を、机の下からそっと小突いたのは、その隣に座っていた校長だった。その表情は大変穏やかで、その人柄を表すものだったが、言われた二人は慌てて襟を正した。
 何とか込み上げる感情を飲み込みながら、斗音は、卒業生一人一人の顔を目に焼き付けるように、視線を巡らせながら言葉を紡いだ。
「・・・こんな・・・・・・こんなに素敵な先輩方と、共に過ごせたことが・・・俺の・・・・・・いいえ、在校生全員の誇りです。全て自分たちの力で。・・・・・・そんなふうに引っ張ってくださった力強さも、その頼もしさも、私たちには本当に眩しくて・・・誇らしくて。・・・そんな先輩方の姿、決して忘れません。忘れることなんて、できるはずがない。・・・・・・こんなに素晴らしい先輩方と・・・お別れしなくてはならないことは、必然だと分かっていても・・・・・・俺は・・・・・・やっぱり、寂しい・・・・・・です・・・・・・」

 言うつもりもなかった本音が、思わず零れてしまい、再び込み上げたものに、言葉が遮られそうになる。その瞬間、近藤と目が合った。いかにも自信に満ちた笑みが、その客観的に見ると男前の顔に閃いた。瞬きの次に瞳に留まった徳本は、こともあろうに、目が合った瞬間に、影でぐっと親指を立てて、片目を瞑って笑った。瓜生は・・・・・・少しだけ笑みを見せたような気がしたが、そうと分かるか分からないかの内に、ふいと視線を逸らしてしまった。それは、実に瓜生らしい仕草だった。
 
そんな姿に、逆に斗音は、背を押された気がした。泣きそうな気持ちに、暖かさが混じって、広がる。震える息を全部吐き出して、次に大きく息を吸った。
「そんな先輩方の創り上げられたものを引き継ぐ責任は、とても大きくて重くて・・・でも、今それを思うと、身が引き締まるのを強く感じます。だからこそ、私たち、一人一人が、先輩方が如月高等学校で輝いてこられた姿を胸に刻み、この如月高等学校の歴史を、更に築き上げていく一員であることを誓います」

 弓削は涼やかな笑みで、武知は苦笑に近い表情で、斗音の視線に応えた。莉紗は、溢れる涙を必死にかわいらしいハンカチで押さえながら、何度もうなずいた。
 
この日のために髪を黒く染められた栃沢や、その取り巻きの志垣・佐藤とは、目が合わなかった。斗音の言葉に後悔の念が溢れて、それが涙となってとめどなく流れる彼らは、顔を上げていられなかったのだ。

 そんな様々な表情の卒業生に向かって、溢れんばかりの思いをこらえながら、以前よりずっと擦れた声で、斗音は優しく語りかけた。
「・・・・・・ですから、先輩方、どうか・・・・・・ご自分の道を、堂々と歩んでください。ここで培われた力は、きっとその道において、大きな支えとなるに違いありません。先輩方の輝ける未来を信じ、祝福し、そして精一杯の感謝の気持ちを込めて・・・・・・送辞の言葉と代えさせていただきます。今まで・・・本当に・・・・・・」
 これで最後。斗音の視界が一気にぼやける。
「・・・本当に・・・ありがとう、ございました・・・。・・・在校生代表、椎名斗音」
 ぱたたっ。礼をした瞬間にこぼれた涙の音が聞こえるかと思うほど、体育館の中は静まり返っていた。送辞の紙を折り畳み、そっと机上に置いて、斗音は白い手の甲でぐっと涙を拭った。その瞬間、割れんばかりの拍手が体育館を揺るがした。驚いて顔を上げた斗音は、一瞬戸惑うように視線を彷徨わせたが、その時、三年一組の出席番号二番として、最前列にいた今井が目に止まった。今井が少しだけ目を細めて、優しい笑みで力強くうなずくのに、ふわりと微笑んで小さくうなずき返し、改めて拍手を送ってくれた人々に対して深く一礼をした。
「卒業生、答辞。卒業生代表、今井文弥」
「はい」
 斗音が席に戻ると同時に呼ばれた今井が、重く静かに返事をして壇上に上がる。既にそこに待機していた校長に対して、丁寧に礼。答辞の紙を開く。
「春も間近に歩み寄り、木々も蓄えた力をいざ芽吹かせんとするこのよき日に、我々卒業生二百十名のために、このような盛大な卒業式を挙行していただき、感激の思いが込み上げてやみません」
 決まり文句のような言葉も、今井が感情を込めると、その言霊が胸に届くようだ。教師や来賓、保護者に宛てて、誠実さのこもった言葉を丁寧に織り上げていく。それを面と向かって聴く校長も、感動を呼び起こされているのだろう。何度も何度もうなずいている。
「これまで私たちを温かく見守り、育て、導いてくださった皆様。本当にありがとうございました。まだまだ未熟な私たちですが、ここでの経験を糧に、ここからはまた、それぞれの新たな人生に向かって進んでいきます。皆様の教えが、きっと私たちの原動力となるでしょう。私たちは、この如月高等学校を卒業したことを誇りに、生きていきます」
 一通りの感謝の思いや、今までの思い出を語った今井は、軽く一礼した。校長も、少し短かった答辞にやや焦りを見せながら、それでも落ち着いて礼を返した。今井が答辞の紙を片付けて、校長に丁寧に渡す。
(え?)
 その体育館にいた全員が、その次の今井の行動に目を瞠り、息を飲んだ。目の前にあったマイクをスタンドから取り外した今井は、くるりとステージから体育館の内側に身体を向けたのだ。
「・・・・・・何やってんだあいつ」
 思わずつぶやいた瓜生の隣に立っている近藤は、ふん、と笑った。
「ここからがあいつの答辞だろうよ」
 今までこの会場の荘厳さを身にまとっていたかのような今井に、晴れやかな笑みが満ちる。
「在校生のみんな・・・そして、代表の斗音。送辞、ありがとう!俺たちはその魂の言葉、確かに受け取った!」
 ざわ、と来賓席や保護者席がどよめく。そんなことお構いなしの今井に、職員席や卒業生の面々は、さもありなんと言わんばかりの苦笑。みんな、今井をよく知っている。今井が生徒会長になったときから、今年度の卒業式は何かが起こると予想していた。在校生からは、女の子たちのきゃあ、という小さな悲鳴から、おぉおっという男子生徒たちの野太い声が上がる。下級生の中で、この今井という人物の人柄を認めない者はない。褒められた話ではないが、女子生徒の中には、彼が莉紗と別れたと聞いて喜んだ者も少なくなかったという。
 斗音も、自分が送辞の文章をそっちのけにした分、予想しなかったことではなかったが、このおおっぴらなやり方が今井らしくて、思わずくすっと笑ってしまった。
「みんなとこの如月高校で過ごした時間は、俺たち卒業生にとってもかけがえのない宝物だ。俺自身、かなり破天荒なことやらかしてた自覚はある。こうやってみんなの前に立ったって、ろくに丁寧語も使いやしない。でも、これが俺だ。こんな俺を、生徒会長に選んでくれたみんな、本当にありがとう!おかげで俺は、最高の高校生活を送ることができた。そして、みんなとそれを分かち合えたこと。それが、どれだけ嬉しかったか。ありがとう。本当にありがとう!」
 在校生の中でもすすり泣きの声がこぼれ始める。
「みんながそれぞれ磨いてきた腕を、精一杯発揮したインターハイへの道。輝かしい地区大会の成績は、例年に勝るものだった。その上インターハイには、剣道団体ベスト8の快挙を成し遂げたのをはじめ、陸上・柔道・男子バスケット・男子テニスが出場した。これだって、三年間の努力を支えてくれた後輩がいてくれたからこそだ。現に、剣道の団体戦を引っ張ってくれていたのは、個人戦で全国三位になった二年生だった。俺たちはその献身的な支えを受けて、思う存分力を出し切ることができた」
 個人的な名前こそ出さなかったけれど、今井がこの場に存在しない剣道部の立役者をほのめかしたとき、斗音は息が止まるかと思った。この場にいなかったからこそ、敢えてその存在を示した今井の思いが、痛いほど伝わってきた。
(慈恩・・・!)
 胸がきゅっと締め付けられる。でも、それは、以前とは違う優しい痛み。心の底に、嬉しさが染みこんでいく。
「そして、忙しくて楽しくて楽しくて楽しくて、一日があっという間に過ぎていった如月祭。あんなに充実した日を、俺は初めて体験した。文化祭では一年生や二年生の出し物で、散々楽しませてもらった。本当にレベルの高い出し物ばかりで、来年が楽しみだと思った。ぜひ、今年最優秀を持っていったベルばらを超えるものを創り上げてくれ。それに、全身の細胞が沸騰するかというくらい盛り上がった体育祭。声を枯らした応援、全力を出し切った競技。全力で喜んで悔しがって・・・団席が一体になって。それもこれも、必死だった俺たちに、一生懸命応えてくれたみんながいたからだ。あんなに密度の濃い時間があった。ここに確かに、そんな時間が存在して、そんな思いが存在して。楽しかったな。それを、執行部を中心にして、自分たちの手で創り上げられたこと。・・・俺たちは本当に幸せだった!」
 すすり泣きから、嗚咽に変わる女子生徒も出始めた。男子生徒の中にも、押さえ切れない涙を拭う者が何人も見られる。卒業生ばかりではない。藤堂もこらえきれずに泣いている。
「如月に来てよかった。本当によかった。俺は欲張りだから、この母校の価値をもっともっと上げたいと願って、そのために精一杯を生徒会長として尽くしてきたつもりだ。ここにいる卒業生も、そして在校生も、みんなその思いに応えてくれた。そして、微々たるとはいえ、成果を残してきたつもりだ。だからこそ・・・・・・俺たちニ百十名が如月の歴史に刻んだものを、椎名副会長をはじめとする、在校生全員に託したい!」
 今度は個人的な名前を挙げられて、斗音は思わず大きく目を瞠って、それを瞬かせた。その瞬間に、在校生全体に視線を送っていた今井と、はっきりと視線が合う。今井の笑みが、力強くうなずいた。
「・・・・・・さっきの送辞を聴いて、託すことができると思った。強い確信だった。あんなに心を揺さぶられる送辞を聴いたのは、初めてだ。原稿なんかじゃない本当の思いを、この卒業式で聴けて嬉しかった。だから俺もそれに応えたいと思った。みんなに届いただろうか・・・。これが、俺の・・・俺たちの在校生への答辞だ!みんな、楽しい時間を本当に、本当にありがとう!卒業生代表、今井文弥!」

 最後まで力強く言い切って、深々と一礼した今井を、場内一斉の拍手喝采が包み込んだ。

   ***

「あ・のカリスマ性は反則だぜ」
 いかにも楽しそうに嵐が笑う。翔一郎もやや興奮気味で、ぎゅっと拳を握る。
「あんなに卒業式で感動したの、初めてだぜ、俺。背筋がぞくぞくしたもんな。中学の時に自分が卒業した時より、ずっと感動した」
 既に、日は傾いて来ている。卒業式の後は、予想通り卒業生にもみくちゃにされた彼らだったが、予想以上に人だかりを作ってしまったのは、斗音と今井だった。その後、生徒会執行部の面々は最後に、在校生の三人で企画したミニ謝恩会を行うということで、生徒会室に集まっていた。その斗音の帰りを待つつもりで、嵐と翔一郎と瞬は、近くのファミレスに来ていた。
「かっこいいよねぇ、今井さんは。でもさぁ、俺は斗音の送辞でも思わず泣けちゃったよ」
 泣けたといいながら、本当に嬉しそうな笑顔は、天使のそれと言っても過言ではない。
「あんなにつらい思いをしてきた斗音がさ。泣くのをこらえながら、一生懸命自分の言葉で言ってて。もうほんと泣けた」
 うなずく嵐と、くすっと笑う翔一郎。
「お前、マジ泣きしてたもんな」
 出席番号の都合上、瞬は翔一郎の後ろだったのだ。そんな翔一郎を、パフェのスプーンをぱくんと口に入れた状態で、瞬がじっと睨む。
「悪かったね、マジ泣きして。翔一郎だって人のこと言えないし」
「いや、だって、なあ・・・」
 困ったように短い前髪を掻き上げる。そんな翔一郎をフォローするように、嵐が割って入った。
「まあまあ。俺だってぐっと来るものがあったさ。その上で、あの今井さんの答辞。すげーよあの人。ていうか、うちの会長副会長コンビがすげーよ」
 嵐がこれほど絶賛するのは珍しい。それだけ心を動かされたのだろう。だが、それで終わらないのが、外見以上に常人離れしている嵐である。頼んでいたコーヒーを一度口に運んでほっと一息ついてから、その灰色がかった瞳に鋭い洞察の光が宿る。
「今井さんは、斗音が会長に出ること・・・知ってるよな、もちろん。役者だぜ。感動させながら、不利だった斗音の印象、きっちり拭ってくれた」
 翔一郎が少し目を細めて笑みを浮かべる。
「そうだな。ま、今は全校のほとんどが、斗音が体調を崩して休み始めた理由を、気管腫瘍だったためっていうの、分かってるんだけど・・・・・・やっぱ、身体が弱くていつ休むかわかんないっていうのはいい印象じゃ、ないからな」
「それを補うだけの器があるって、アピールしてくれたんだね」
 とろける生クリームのように、ふんわりと瞬が微笑む。翔一郎と嵐は顔を見合わせて、思わず肩をすくめた。
「お前はほんとに、パフェが似合うね」
「斗音と並んでパフェ食ってたら、さぞ見目麗しい光景だろうな」
「・・・・・・・・・・・・」
 言われた瞬は、せっかくの笑顔を引っ込めたが、しばし無言で考えたあと、いきなりテーブルに設置されたコールボタンを押した。
「?」
「どうした、瞬?」
 如月バスケット部を支える部長とエースが首をかしげる中、そそくさと駆けつけてきたウエイトレスに、瞬はパフェより甘い笑顔で追加注文する。
「あのね、チャレンジパフェに、この二人が挑戦したいんだって」
「えっ」
「なっ」
 目を見開いた二人が抗議するより早く、店員は嬉しそうに伝票に注文を追加して、少々お待ちください、と笑顔を残して去っていった。
「・・・・・・な・・・んで、チャレンジ?」
 恐る恐る聞いた翔一郎に、瞬は再びにっこり。
「斗音待ってる間、暇だし?いい男二人が並んで、でっかいパフェにかじりついてる光景も、面白いんじゃないかと思って」
 思わず翔一郎が、隣の嵐を肘でつつく。嵐も、しまったという表情を隠しきれない。
「悪い、不用意だった」
 自分のセリフが、瞬を天邪鬼な行動に駆り立てたことは、疑いない。翔一郎が、更に縋るような目を向ける。
「俺、あんま甘いの得意じゃないんだけど」
「偶然だな、俺もだ」
「ふふっ、楽しみだね♪どんなのがくるのかなぁ」

 無邪気とは言いがたい瞬の天使の笑みに、バスケ部の主将と副主将は、げんなりと肩を落とした。

 とけかけた大量のアイスクリームに、たっぷり飾り付けられた生クリームも崩れかけ、突き立てられたフルーツのいくつかはなくなっているものの。
「・・・・・・・・・・・・何、この惨状は」
 その巨大なパフェの前に討ち死に状態の、イケメン高校生二人。
「・・・・・・よぉ、斗音。あとは・・・頼んだ・・・・・・」
「・・・も、俺、ダメ・・・・・・・・・」
「斗音!待ってたよ。この二人が潰れちゃって、暇でさ」
 その前に、女の子でもそうそう敵わないような、それはそれはかわいらしいスマイル。何となく状況は察したものの、思わずこぼした。
「何を言われたのかは知らないけど、この二人にこのパフェはないだろ」
「ん~、まあ、細かいことはいいじゃん。食べかけで悪いけどさ、よかったら一緒につつかない?もったいないっしょ?」
 ほら、とスプーンを差し出されて、斗音は瞬の隣に腰を下ろし、スプーンを受け取る。
「そこの二人も。まだ全然食べてないじゃん。とけちゃうよ」
 瞬の誘いに、何とか身体を起こした嵐は青い溜息を返す。
「無理」
 突っ伏したままの翔一郎は、歯切れの悪いこもった声で呻いた。
「せめてコーンフレークが出てきたらにしてくれ」
 斗音は、昼食をかねていたはずのミニ謝恩会で、準備していたジュースを少し口にした程度だったので、空腹といえば空腹だったのだが。
「・・・・・・胸が一杯で食べられない?」
 うかがうような言葉に、はっと目を向ける。笑みを含んだ視線は、淡紫色の髪の友人。
「・・・嵐・・・・・・」
「今日の答辞、お前へのメッセージが含まれてたろ。今井さんは、お前を応援するつもりでいるんじゃないのか?」
 相変わらずの鋭さに、斗音は諦めたように笑った。彼に隠し事は、するだけ無駄。そんなことは、嫌というほど分かっている。
「そう、言ってくれてる。もちろん、謝恩会では藤堂もいたし、おおっぴらにはそんな話してないけど」
 少しはにかむような笑みが、細面の綺麗な顔にふわりと浮かぶ。ミニ謝恩会での今井の姿が、斗音の記憶を優しくくすぐる。
「慈恩が抜けて、あの卓越した力を補って進めてくるのは、本当に大変だったと思う。だけど、斗音は倒れるまで無理をしながら、俺たちを支えてくれた。斗音が倒れてからは、藤堂。そして、氷室。二人が、本当によくフォローしてくれた。ありがとう。卒業式の大役も果たしたことだし、俺としては、もう思い残すことはない」
 そう、みんなの前で、全てを包み込むような笑みを見せた。泣きっぱなしの藤堂と、涙の一つも見せずにクールな態度を崩さなかった氷室。斗音は・・・・・・送辞で抑え込んだ思いを、今度は抑えなかった。
「斗音と藤堂が、会長に立候補するんだから、如月生徒会執行部も安泰だな。どっちが会長になっても、もう一人が執行部員の一人になって、会長を支えてくれればいいと思う。弓削や莉紗みたいに」
 くすっと笑ったのは、弓削と莉紗だった。この二人は、一年前に今井と会長の座を懸けて、選挙戦を戦った間柄だった。今井が出るというのは分かっていたけれど、会長が信任投票では、その責任の重さが変わってしまうという理由で、敢えて対抗馬に立った二人だった。この二人を落選させた責任を、今井が背負っていくために。
「俺はここにいられてよかったと思ってるよ。最初から負ける気で立候補したわけじゃないから、選挙で今井に負けたのは悔しかったけど、でも、今井とやってこられて、やっぱこいつは会長の器だったと思ったし、何より楽しかったから」
「私は紅一点ってところで票の獲得を狙ったんだけど、男女どっちにも人気の高い文弥くんには、やっぱり敵わなかった。つらいこともあったけど、やっぱり楽しかったわ。藤堂くん、斗音くん、氷室くん・・・それに、慈恩くんとも一緒に仕事ができて、嬉しかった。だから、二人とも・・・きっと執行部を支えていく一員になってね」
 まだ莉紗の目は潤んでいる。卒業式で散々泣いて、みんなで写真を撮るときに散々苦労したのだが、感情がまた昂ぶっているのだろう。それを見て、藤堂がまた隠すこともなく涙を流す。
「俺、小学校も中学校も、ずっと会長やってきて、高校でも・・・って当たり前に考えてたんです。けど、ここの執行部は、やってることも何もかも、全然レベルが違ってて・・・・・・先輩みんなが、俺の目標でした。ほんと俺楽しくて・・・だから、やっぱり高校でも会長やりたいって、改めて思って」
 涙を拭って、てへっと照れ笑いをする。
「斗音が相手だったら、勝ちたいけど、でも負けても悔しくないっス。俺、こいつがどれだけ頑張れる奴か、知ってるっスから」
 その人懐っこい笑みに、みんなが苦笑しながら、頑張れ、と声を掛ける。莉紗が自分のハンカチでその涙を押さえてくれたのに、真っ赤になって、更にからかわれる。
「・・・・・・副会長も、なんか言ったらどうです?」
 笑わない唯一の後輩が、チラッと斗音を見下ろす。一番年下なのに、このメンバーの中で一番背の高い氷室は、視線の高さを合わせるなんてことはしないので、大体見下ろされる羽目になる。斗音は目尻にたまる涙を、そっと指で拭って微笑んだ。
「俺、言いたいことは送辞で言ったつもりだから」
「な~に遠慮してんだ」
 全く別のところから、頭をわしゃわしゃと乱されて、斗音は慌てる。
「た、武知先輩・・・」
 そのまま肩を力強く引き寄せられた。振り返るより前に、強面がにやっと笑いながらのぞき込んでくる。
「お前にはな、頑張れよ、なんて言ってやらねえぞ。お前はそんなこと言わなくても頑張りすぎるからな。どの道執行部に関わるつもりなら、お前はもうちょっと自分を大事にしろ。それくらいで十分だ」
 大きな茶色の瞳を瞬かせて、斗音は思わず言葉に詰まる。
「いや、でも俺は・・・・・・」
 続けようと、思い切って顔を上げた瞬間、今日でその役目を終えた生徒会長の真摯な視線にぶつかった。
「迷惑掛けた、なんて、この後に及んで言うんじゃないぞ、斗音」
「・・・・・・・・・・・・」
 ズバリ言い当てられて、言葉を取り上げられてしまう。
「俺は、副会長にお前を指名したこと、一片たりとも後悔してない。お前でよかった、斗音。この大変な仕事、受けてくれて嬉しかった」
 ニッと笑みを載せる。その笑顔に、斗音の涙が思わずこぼれる。武知の手が離れた肩を、今度は今井が正面から強く抱き寄せた。
「最高の相棒だったよ、お前は」
 まだ回復しきらない身体が折れそうなくらい、その力は強くて、耳元で囁かれた言葉の熱さと優しさが、身体中に流れて、斗音はなす術なくその腕に包まれたまま、込み上げてくる思いを涙に託すばかりだった。
 目の前でとろりととけていくアイスクリームを見るともなしに、斗音はぼんやり目に映す。
「・・・・・・正直、選挙に出るって決めてから、それでも・・・・・・体調の不安も、俺に務まるのかっていう不安も、選挙で勝てるのかっていう不安もあって、その上現執行部に散々迷惑掛けたっていう負い目があって。だけど、そういうもの、みんな全部どうでもいいって思わせてくれるような・・・そんな感じだった。俺たちが開いた会だったのに、結局励まされたのは俺たちでさ。やっぱり、みんな最高の先輩たちだったなって」
 少し目を潤ませて話す斗音を、三人は優しく見守る。如月祭で見せた精神的な不安定さは、今の斗音にはあまり見られない。本当に心を動かされたその様子は、三人にとってはとても心温まるものだった。
 その三人の柔らかな視線を感じたのか、斗音は白い手の甲でごしごしと目をこすって、ニコッと笑った。
「さあ、じゃあみんなでパフェ食べようか。さすがにこれを残したら、バチが当たるよ」
「りょーかい!」
 元気よくスプーンを構えたのは瞬だけで、あとの二人は再び突きつけられた現実に、うっと言葉を詰まらせてしまった。

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五十五.十字架の絆

 桜花高等学校の名にふさわしい、グラウンドをぐるりと囲んだ桜の木。その枝の先が、遠目に見ても赤みを帯び、ところどころ、ほころぶように薄い紅色の花が開き始めている。
「春休みが終わるまでは二年生だが、この春休みは三年生のスタートを決めるものだ。受験生としてのスタートをどう切るかは、一人一人の心がけ次第になってくる。大学へのエスカレーターはあるにせよ、それでも試験はあるのだから気を抜かないように・・・」
 そんな担任の櫻木の言葉を、完全に聞き流しながら、そんな外の風景に目をやっているのは、このクラスの大黒柱を演じ続けてきた近衛だった。

 クリスマスから年末にかけての、あの途方もない出来事が落ち着いて、近衛は自分の中でずいぶん大きく何かが変わったような気がしていた。まずそれが現れたのが、水面下で渦巻いていた鷹司家との対立においてだった。鷹司の陰謀は、近衛と近衛の母によって、見事に退けられた。
 
近衛の右腕の一つを担う西園寺が、伏原家の裏切りによって大ダメージをこうむりそうになったところで、近衛の母は伏原夫人や、その傘下の企業を担う名のある家のご婦人方を、個人的なお茶会を何度か催して招き、その人柄でうまく丸め込んだ。そして近衛自身は、近衛を継ぐ後継者として、正月の大規模な年賀パーティーで、比類なき実力を備えた御曹司振りを披露して見せた。これまで「まだ早い」という理由で、正式に参加しようとしなかった会だったので、父親や祖父は大いに驚き、喜んだ。知的な容姿を裏切らない明晰な頭脳と、どこに出しても恥ずかしくない礼節を身につけている近衛家の跡取り息子は、近衛家のとっておきだった。
「悠大さんも、覚悟はなさったのですね」
 近衛の母が優美に笑いながら言ったものである。この母にだけは、口実をつけて逃げていたのがばれていたらしい。
「でも、あなたの姿を見て、こちらに付いたほうが先々明るいと思われた方々も多かったようですよ。冷泉と醍醐の御当主が、近衛のバックアップを約束してくださいましたからね」
 冷泉と醍醐は鷹司の両翼である。間違いなく冷泉の方が伏原をそそのかしたに違いないのだが、伏原が西園寺との提携を切ることを渋り始めたこともあり、元々敵対している相手であるわけでもないので、万が一鷹司に切られたとしても、近衛についておけば生き残れる、と判断したようだ。むしろ、こちらを敵に回したくないといったところかもしれない。
 近衛を駆り立てたのは、鷹司から慈恩を守りたい、ただその一心だった。もしこれで近衛に少しでもダメージがあったとしたら、つらい思いをするのは慈恩だろう。そんなふうにはさせない。そして、二度と鷹司から慈恩や近衛に何かしらの妨害をさせない。・・・・・・鷹司が、あれ以来自分たちに何も関わってくることなく卒業し、この学校への影響力がなくなって、とりあえずはしのげたに違いない。自分が家の駒になることを嫌悪している近衛にとっては、大きな決心が必要だったのだが、それでも躊躇いはなかった。つらい思いをした慈恩に、少しでも心の平穏を取り戻せる環境を作ってやりたいという思いに比べれば、自分の今までのポリシーだとか、こだわりなんてものは、小さなものに過ぎなかった。
(あの、小さくほころんだ花・・・慈恩の兄貴みたいだ)
 病室で、自分を見てふわっと微笑んだ、あの綺麗で華奢な少年は、近衛の脳裏に深く刻み込まれている。あんなに儚いのに、惹かれてやまない。そんな雰囲気をもっていた。隼でなくても、あれは惚れるかもしれない。
 そんな斗音がある程度回復するまで、慈恩は学校を欠席すると決めた。そして、その視野の中には、如月高校への転校が含まれていることも、近衛には分かっていた。
 慈恩の大事な、たった一人の家族を、死の間際まで追い込んだという事実は、さすがの九条家にとっても重いものだった。
「いっそ死んでしまえば、慈恩も心を囚われるものがなくなったろうに」
 それでも、九条家の最高権力を握る重盛は、そうつぶやいたという。しかし、それを聞いた慈恩は殺気をみなぎらせた目で、堂々と重盛を威圧した。
「もし斗音が死んでいたら、俺は斗音を殺した九条家を、自分も含めて許さない。生かしてなんか、おかない。俺は九条慈恩である前に、椎名慈恩で、椎名斗音の、たった一人の家族だ」
 重盛を怒鳴りつけようと身構えた絢音や雅成でさえ、その漆黒の瞳の底で煮えたぎる怒りに、言葉を失った。

「俗だと言うのなら言えばいい。九条が望んで身内に抱えた人間は、こんな人間なのだから」
 
重盛が更に口を開く前にそう吐き捨てて、慈恩はしばらく九条家に戻らない旨を、雅成に告げた。自分たちが認め、手に入れたがった慈恩自身の固い決心である。さすがの九条家も、慈恩への拘束力を緩めざるを得なかった。
 
桜花の剣道部で仲間に認められ、今や欠かせない存在にまで成長した慈恩を、失うのは痛手だった。何より近衛自身が、心底惹かれた相手を失うことが、つらかった。それを思うたびに、苦しさが胸を貫いた。
(俺、ほんとにあいつに惚れてたんだなぁ・・・・・・)
「・・・おい」
 小声で隣からつつかれる。はっと振り返ると、漆黒の瞳がちらりと前を促す。
「・・・っ、き、起立!」
 担任の話がとっくに終わって、このクラス最後の挨拶を求められていたのだ。櫻木が、珍しく目元を和らげた。
「近衛でも他ごとを考えていたりするんだな。最後に珍しいものを見られた」
 櫻木の、それこそ珍しい物言いに、クラス中が笑いでどよめく。
「すみません・・・」
 ちらりと横へ視線を流すと、すらりとした身体に桜花のブレザーの冬服を身にまとう剣道部のエースが、おかしそうに口元に長い指を押し当てて、笑いをこらえている。
(・・・この野郎)
「礼っ!」

 学級解散の合図でもある最後の礼は、このクラスで最も親しみやすいものであった。

   ***

「ただいま」
 慈恩の開けた玄関を、近衛は少し戸惑いながらくぐる。ここに来るのは三度目だが、この小ささにはまだあまり慣れない。一般の家庭よりは、庭も広いし玄関も大きい・・・のだろうが、自分の住んでいる世界が違うのだ。
「・・・お邪魔し」
「おかえりっ!」
 近衛が訪問の挨拶をするのとほぼ同時に、元気のいいハスキーボイスと素敵な笑顔が、近衛の聴覚と視覚を奪った。
「ようこそ、椎名家へ。悠大、待ってたよ」
(っ・・・・・・これは反則だろ)
 いきなり白くて細い指が、自分の右手に絡まって、ぶんぶんと握手。目の前には、満開の桜のように華やかな満面の笑み。ものすごく儚い印象だったのが、ちょっと覆される。
「あ・・・えっと、快気祝い・・・・・・」
 スクールバッグに入れてあった、小さいけれどしっかりした紙袋を、思わず突き出す。斗音はそれをきょとんと、綺麗な薄茶の瞳で見つめる。ずいぶん睫毛が長いのだ、と思う。
「え、よかったのに、そんな気を遣ってくれなくても・・・・・・」
 それでも、にっこり微笑む。
「ありがとう。どうぞ、あがって。あのさ、慈恩。悠大が来てくれるってんで、俺ちょっと張り切って、おやつ、作ってみたんだけど」
 たちまち慈恩が、何とも言えない表情で首をかしげた。
「・・・・・・何を作ったんだ?」
「フルーツサンドイッチ」
 にこりと微笑む様は、まるで天使のようだ。年末に病室を見舞った時に比べると、やせてげっそりしていた頬は丸みを帯びて、ほっそりしてはいるが、赤みもさしている。何より、表情が生き生きしている。
「・・・・・・フルーツサンドイッチ?」
 初めて聞く名前に近衛が首をかしげると、斗音はまたふんわりと笑う。
「サンドイッチの中身がね、生クリームとフルーツなんだよ」
「へえ・・・・・・そんなのがあるんだ」
「まあ、庶民の味かもしれないな」
 慈恩はやや苦笑した。
 以前泊まった時に、みんなで雑魚寝した居間である。雑魚寝というのを初めて経験したが、斗音や慈恩のことが心配でなければ、かなり楽しいものだったに違いない。そこで、ソファに座って、慈恩が入れてくれた炭酸のジュースを口にする。
「・・・・・・うまい」
 これはジンジャーエールだ。炭酸もきつすぎず、ジンジャーの香りがたって、とても香ばしい。思わずつぶやいた近衛に、斗音が嬉しそうに微笑む。
「慈恩は料理の天才だからね。慈恩が作るものは、何だってメチャメチャおいしいよ」
「・・・・・・そ、そうなのか・・・・・・」
 これまた初耳である。が、以前手作りのジンジャーエールのレシピを欲しがったことがあったのを思い出す。そして、初めて諭されたときに、料理を作る側の話をされたことがあった。
(そっか。こいつ、ほんとに何でもできるんだな)
 感心しながら、サンドイッチに手を伸ばす。甘いサンドイッチというのを、近衛は食べたことがなかったので、最初は小さめの一口を含んでみた。それを斗音が心配そうに、ガラスのような薄茶の瞳で、じっと見つめている。その視線に、やや緊張を覚えながら、近衛はフルーツサンドイッチを味わってみる。口からでまかせに「美味しい」と言うことは容易かったが、斗音にそれは失礼な気がしたのだ。
 食パンの微かな塩味と、やや泡立てすぎの感はあるものの、あまり甘くない生クリーム、そしてインパクトのある甘さの、桃のコンポートだろうか。味としては悪くない。食感も、面白い。
「・・・・・・美味しいと思う」
 正直な感想を口にすると、斗音が少し不思議そうに首をかしげた。
「思う?」
「え~と、なんて言うか・・・・・・初めてこういう味を経験したから、なんて言っていいのかよく分からないけど・・・親しみやすい味だな」
「褒められたのかな?俺」
 やや苦笑気味の斗音に、慈恩がやはり一口フルーツサンドイッチを口にしてうなずく。
「美味いぞ、これ。ちょっとかためだけど、生クリームがあんまり甘くないところがいい。桃缶が甘いから、丁度いい感じだ」
「モモカンって?」
 思わず近衛が聞き返すと、二人から驚きの眼差しを返されてしまった。
「えっ、桃缶知らないの?」
「えっ、これ、桃のコンポートじゃないのか?」
「・・・まあ、似たようなもんだけど・・・・・・これはそこらで売ってる桃の缶詰だ」
 苦笑する慈恩に、近衛はやや気まずさを感じた。そんな当たり前のことも、自分は知らないのか。そう思った瞬間、くすくすっと笑う斗音が目に入った。
「やっだなぁ。慈恩ならともかく、俺は桃のコンポートなんて高等テクニック、使えないって」
 さらさらのアッシュの髪が小刻みに揺れる。それに慈恩も相槌を打った。
「確かにな。でもあれ、砂糖とワインを加えて煮るだけだぞ」
「ワインが出てきた時点で無理」
 思わず近衛も笑いに巻き込まれる。そして、笑いながら悟った。普通の日本人なら誰でも知っていることを知らなかった自分に、恥をかかせまいとして、斗音が自分の不得手をさらけ出すことで、さらりと話を逸らしたことを。
「あ、そう言えば、快気祝い・・・開けていい?」
 先ほど渡した小さな紙袋を引き寄せて、斗音が近衛を見つめる。本当に綺麗な瞳だと思う。慈恩の漆黒の瞳は、引き込まれるような魅力があると思うが、斗音のこの瞳は、放っておけずに手を差し延べたくなる魅力がある。
「ああ・・・大したものじゃ、ないんだけど・・・・・・」
 紙袋から黒い小箱を取り出す。金色の文字を見て、斗音の綺麗な瞳がぎょっと見開かれる。
「ちょっと待って、こ、これって・・・・・・」
「時計だよ。俺、どういうものがいいのかほんと分からなくて、俺が気に入ってるものだったらいいかと思って・・・。いくつあっても使えると思うし」
 斗音の様子をいぶかしんだ慈恩が、その箱の文字を見てやっぱり目を瞠る。
「だからって、これ、ブルガリって・・・・・・」
「ディアゴノ プロフェッショナルのエア。バスケやるって聞いたから、スポーツ用がいいだろ?うちがよく買ってる店があって、安くしてくれるって言うから、丁度いいと思って」
 自分の腕時計を見せる。
「ほら、このタイプだ。色々使えて便利だぜ。海外に行く時とかも、時間合わせられるし」
「ちょっと待て、悠大。こういうことは、あんまり聞くもんじゃないって分かってるけど、これ、いくらだ?」
 かなり切羽詰ったような顔をして慈恩が訊くので、近衛は、ちょっと自分の感覚がずれていたかもしれない、と思わなくもなかったが、自分が株で儲けた分から出しているし、それほどまずいことはないだろう、と、やや少なく見積もった値段を口にした。
「八十と、ちょっと」
「ええええええええっ!?」
 斗音は思わず箱を取り落としそうになり、慌ててそれを大事そうに両手で受け止める。慈恩は額に長い指を添えて、微かに首を振った。
「悠大、それは・・・・・・一般の高校生には、あまりにも受け取りがたい値段なんだけど」
「・・・・・・そう、か?でも、親の金じゃないし・・・・・・」
 やっぱり自分の感覚はずれているのだ、と、改めて思い知る。せっかく手に入れた物なのだが、また改めて別の物を買い直すか。と、やや気落ちした瞬間、ぎゅっと両手をつかまれて、驚いて顔を上げる。目の前に、大きなガラスのように薄い色の瞳。

「俺・・・・・・悠大が俺のお見舞いに来てくれた時から思ってたんだ。この時計、かっこいいなって。あのさ、あの・・・・・・ほんっとにもらっちゃっていいの?」
「え・・・いいも何も、その為だけに持って来たんだけど・・・」
 その勢いに押されながら、うなずいて答える。それでも斗音の勢いは衰えない。
「ほんとに?ほんとに俺でいいの?」
「だから、お前に使ってもらいたくて、持って来たんだって」
 言った瞬間、細い腕が思ったより強い力で首に絡み付いてきて、抱きつかれたのだと知った。
「・・・・・・ありがと・・・。大事に・・・・・・大事に使うよ・・・・・・」
 擦れた声が耳元で囁く。その言葉に、この高級時計を受け取ることの重さを感じた。それでも斗音は、近衛の思いを優先してくれたのだ。
(・・・・・・まただ。こいつはどこまで優しいんだろう。絶対に俺が傷つかないように・・・)
「いいのか、斗音」
 低くて優しい声。慈恩は、斗音を気遣う時、こんな声で話す。
「うん」
 ようやく近衛から離れた斗音は、少し照れたように笑った。
「俺、とてもお返しなんてできないけど・・・・・・その代わりに、慈恩の作る夕ご飯、よかったら食べてって。俺にできる最高のお返しだから」
 つられたように、慈恩も笑う。
「俺が作るのか」
「だって、俺が作ったらお返しにならない。手伝うから」
 両手を顔の前で合わせて、器用にぱちんと片目を閉じて見せる。そんなかわいらしくお願いされて、断れる人間がどれだけいるだろう。慈恩が軽く肩をすくめた。
「火曜日から土曜日までは慈恩もこっちにいるから、いつでも好きなときに来てよ。これ以上のものは・・・今の俺には返せないんだけど・・・・・・」
 少し困ったように微笑んで首を傾ける斗音を見て、次からの土産やお見舞いは一万円以内にしようと心に決めた近衛だった。それ以上にありがたい申し出など、近衛にも存在しなかったのだが。
「それ、全面的に俺がやることだろ。それでいいのか?如月の次期生徒会長ともあろう人間が」
 からかうような慈恩の言葉に、今度は斗音が肩をすくめる。
「学校で慈恩のサポートが期待できない分、家で期待したいなあ。それに悠大は、桜花の親友なんだろ?」
 その言葉に、近衛は胸をぎゅっとつかまれるような気がした。
 慈恩は、如月高校には戻らなかった。色々悩んだようだが、斗音は学校では大丈夫だ、と判断したらしい。そして最も気がかりだった椎名の家に、戻ることを決めた。とはいえ、九条に全く帰らないのも、九条夫妻に申し訳ないと考えるところが慈恩らしい。今は日曜日に九条へ行って、火曜日には学校から直で椎名家に帰ってくる。
 慈恩のその選択が、近衛にとってどれほど嬉しいものだったか。それを聞いたときの感激は、言葉になんて表せないほどだった。
「俺は、また如月の剣道部と対戦したい。・・・・・・そりゃ、如月に未練がないとは言わないけど・・・・・・桜花の剣道部は、俺にとっては捨てがたいものだから」
 もっともっと捨てがたいものを、無理矢理切り捨てさせられた慈恩だ。今なら近衛にも、少し分かる。如月が、どんなに生徒主体で生き生きと活動しているのか。桜花がどれだけ形式に囚われた学校なのか。
「・・・・・・生徒、会長なのか。お前も」
 あのひどい状態を乗り越えてよくぞと思うが、分からなくはない。これだけの器の人間だ。十分勤まるだろう。斗音はやや苦笑する。
「何とか、ね。いっぱいいっぱい、たくさんの人が支えてくれたから」
 候補者は二人。藤堂と斗音の獲得票数は、意外に開いた。斗音の得票率は六十八%で、恐らく長期欠席がなければ、今井に劣らない八割の票を確保していたに違いない。
「ていうか、お前もって・・・・・・」
 斗音の問い返しに、近衛は小さく、けれど、固くうなずく。
「俺が、桜花を少しでも変えたいと思って・・・・・・少しでも、如月みたいに自主性を生み出したい」
 如月ほど会長に権限なんてないんだけど、と話すが、それで終わらせるつもりなどない。
「如月の生徒会のこと、色々教えて欲しい。慈恩に、少しでも楽しいと思える高校生活を、味わわせたい。やっぱり如月に戻ればよかったなんて、後悔させたくないんだ」
 瞬間、軽く瞬きをした薄茶の瞳が、真剣な光を浮かべる。それだけで、空気がピンと張りつめたような気がした。斗音のまとうオーラの色が、一瞬にして変わる。
「・・・いい目をするんだね、悠大」
 張りつめた空気が、たちまち斗音の微笑みに溶けていく。気のせいかと思うほどの一瞬が、この斗音の見せた本気の一角だったのだろう。

「・・・慈恩のこと、大事に思ってくれてるんだね。ありがとう。きっと、変えられるよ。悠大なら」

 アボガドとゆで卵とトマトのサラダに海老とミズナの生春巻き、デミグラスソースの煮込みハンバーグとごま油で風味付けした卵スープ。それに硬めのライスがよく合って、確かに慈恩は天才だと思った。高級料理を食べ慣れている近衛ですら、どれもこれも驚くほど美味しかったのだ。
 慈恩の手料理を味わう幸せを味わった近衛が椎名家を退出したのは、午後九時を過ぎていた。迎えの車を前に、快気祝いのせめてものお返しにと、慈恩が何かを思い立ったように、急いで家の中にとって返した。
「・・・斗音の快気祝いなんだけどなあ」
 栗色の髪を掻き上げながら近衛が言うと、斗音も少し首をかしげた。
「何だろ。まあ、慈恩の方が、悠大の喜ぶものは分かるだろうけど・・・・・・」
 改めて、門灯に照らし出される綺麗な瞳が近衛を捉えた。
「悠大」
 少し擦れた声に呼ばれて、視線を合わせると、自分のブレザーの袖をそっとつかむ白い指が目に入った。
「ん?」
「・・・・・・慈恩を、頼むね」
「・・・え?」
 じっと見つめてくる斗音の表情に、柔らかさはない。どちらかというと、固い。こんな表情もするのか、と思った瞬間、その表情が隠れた。ブレザーの胸に、白い額が押し当てられたのだ。
「慈恩に、何もかもを捨てさせたのは、俺なんだ。・・・まさか、学校を変われって言われるとは思ってなかったけど・・・・・・でも、慈恩を逃げられなくしたのは、俺で。だから・・・・・・その報いだね。俺がどんなに如月で頑張ったって、慈恩を楽しませることはもうできない。それでも・・・・・・」
 次に見た斗音の表情は、悲壮な願いに満ちていた。
「俺も・・・・・・慈恩に後悔してほしくない。悠大、だから、どうか」
 夜目にも白い指にぎゅっと力が込められ、さっきより強く額を押し付けられる。
「本気で慈恩を思ってくれる悠大に・・・・・・!」
「・・・・・・うん」
 柔らかい髪の上に、そっと手を載せる。よし、よしと、優しくなでた。
「・・・うん」
 任せろ、なんて大言壮語を吐く気にはなれない。ただ、自分と同じことを願っている斗音の気持ちは、痛いほどよく分かった。
 玄関が勢いよく開いて、何かを手に抱えた慈恩が走ってくる。斗音がそっと近衛から離れて振り返る。
「悪い、お待たせ」
 軽く走ってきたくせに、息の一つも乱さない。布の袋に包まれたものを、控え目に差し出す。
「あのさ・・・これで釣り合いが取れるなんて思わないけど・・・・・・使って、みるか?」
「・・・竹刀・・・?」
 丁寧に受け取って、紐をほどき、するりと引き出す。結構使い込んであるのは分かるが、まだまだ使えそうだし、長さや太さもいい感じだ。手にしっくり来る。
「お前が使ってるやつ?」
「インターハイで使ってた。桜花に行くことになって、九条の家が新しい竹刀を用意してくれたから、今はそれを使ってるけど・・・・・・俺に合うように作ったし、気に入ってる」
 思わず近衛は、竹刀を抱き締めたくなるような衝動に駆られた。胸が震える。
「い、いいのか・・・・・・そんな、大事な・・・・・・」
「使わないのも、もったいないだろ。もし、悠大さえよければもらってほしい」
 静かな漆黒の瞳が、少し照れくさそうな笑みを浮かべた。目頭が熱くなって、近衛はそっと竹刀を腕に包み込む。
「俺にとっては・・・・・・使うのももったいない宝物だ」
 釣り合うわけがない。ちょっと金を出せば手に入る時計なんかと、慈恩の手で作られた、慈恩の最高峰の思い出が込められた竹刀。それほど、慈恩にとって斗音は特別なのだ。
「・・・ありがとう」
「お礼を言うのはこっちだよ。なんか、何から何まで慈恩がお返ししちゃってるけど・・・・・・」
 苦笑した斗音だが、最後に優しい声が囁いた。
「それ、慈恩は大事にしてたよ。悠大は、慈恩の中で特別な存在なんだね」

 顔を上げたら、綺麗な月の光に照らされて、桜の花がほころぶような微笑みがあった。

   ***

 風呂上がりの濡れた髪をタオルで拭きながら、慈恩は自分の部屋へ上がった。元々斗音の部屋だったところだ。そこへ、コンコン、とノック。
「どうした?」
 振り返ると、ドアが開いてうかがうような視線とぶつかる。
「ごめん、本棚に一年生の時の物理の参考書、入ってない?」
「ちょっと待ってろ」
 現在は慈恩の部屋だったところを使っている斗音だが、大きな立て付けの本棚はこちらにしかない。本好きの斗音だったから、本棚のあるほうを使っていたのだ。
 グリーンの背表紙のそれを、一番高いところからやすやすと取り出して、斗音に渡す。
「ありがと」
「この時間から勉強か?」
 斗音にやや苦い笑みが浮かぶ。
「うん・・・・・・ちょっと、忘れちゃってるところが、あってさ」
 一ヶ月、まともに勉強などできる状態ではなかった。如月の鬼のように早い授業の分を、斗音は必死に取り戻そうとしている。少しでも時間があれば、ずっと翔一郎たちが取ってくれていたノートと教科書や参考書を照らし合わせている。
「そっちへ行こうか?」
「・・・・・・・・・・・・うん・・・・・・助かる」

 躊躇った上での返事には、複雑なものがあると分かる。それを励ますように、アッシュの髪をくしゃくしゃとなでた。

 斗音が入院している間に、斗音の部屋はそれなりに隼が片付けた。だから、慈恩がここに帰ってきたときは、特に何かを感じることもなかったのだが、斗音が退院して帰ってきたときのことを、今でも慈恩は忘れられない。
 階段を上る辺りで、急に斗音の足が重くなった。疲れたのかと思ったのだが、白い顔が青ざめていた。そして、この部屋に足を踏み入れた瞬間、斗音の呼吸音に笛のような音が混じった。
「・・・斗音?」
「・・・・・・あ・・・あっ・・・・・・」
 がくんと膝が折れ、倒れる寸前で慈恩はその華奢な身体を抱きとめた。
(発作・・・・・・!?)
 手術以降、一度も発作を起こしていなかった。それが突然だったので、慈恩は戸惑いを隠せなかった。とにかく、目の前のベッドに寝かせようとした途端、渾身の力で腕を振りほどかれた。
「や・・・・・・嫌・・・だっ!!」
「なっ・・・」
 苦悶に歪む表情。見開かれた瞳の焦点は、この空間にあるどこにも合っていなくて、慈恩が触れることさえ拒絶した。
「・・・来るな・・・っ・・・・・・俺に・・・触れるなっ・・・!」
 叫んだかと思うと、ひどく濁った咳をして、崩れ落ちる。
「斗音・・・!」
 慌てて荷物の中から吸入器を取り出し、それを口にあてがおうとするが、それも腕で払いのけようとする。
「おい、何して・・・!」
「っ・・・・・・や・・・めろ・・・・・・」
(・・・・・・これ、は・・・・・・)
 愕然とした。斗音の精神に刻み込まれた、深い傷。
「・・・ぅ・・・・・・っく・・・るな・・・」
 ままならない呼吸で声を絞り出してしまうので、どうにもならない。暴れ、もがき苦しむ身体を、無理やり抱き締めて、必死に耳元に唇を寄せた。
「斗音、斗音!落ち着け!もうここにあいつはいない!」
「・・・・・・ぃや・・・・・・っ・・・こ・・・・・・ないで・・・・・・し・・・に・・・神・・・」
「馬鹿っ、しゃべったら息ができなくなる!」
「・・・す・・・けて・・・・・・っ・・・も・・・やめ・・・・・・」
 涙混じりの縋るような声に、熱いものが込み上げてくる。いつもいつも、こんなふうに悲鳴を上げていたのか。あの体躯から、あの馬鹿力から、斗音がどんなにあがこうと、逃れられるはずがないのに。
「聞いて・・・俺の声を、聞いてくれ、斗音!・・・俺の声が分からないか!」
 叱りつけたのか、悲痛な声を上げたのか、自分でも分からなかった。ただつらくてたまらなかった。けれど、その瞬間に斗音の動きはふっと止まった。
「・・・慈・・・・・・恩・・・・・・」
 聞き取れないほどの、空気をかするだけの声。
(分かってくれた!)
 切なさに、一瞬だけぎゅっと腕に力を込めてから、その身体を床に横たえ、素早く薬をあてがった。薄く開いただけの瞳から、すっとひとすじ、涙が尾をひいた。
 しばらく休んでようやく起き上がれた斗音だったが、ひどく青ざめて、小さく肩を震わせていた。それを優しく腕に包み込んで、慈恩はそのやわらかい髪を、華奢な背を、何度も何度もなでた。
「・・・・・・ありがとう・・・ごめん・・・」
 消え入りそうな声はそれでも震えていて、慈恩は胸が張り裂けそうだった。それを飲み込んで、静かに首を振る。
「・・・・・・部屋、引っ越そう。俺の部屋、使うか?」

 斗音が小さくうなずいたのを確認して、慈恩はもう一度腕におさまった華奢な身体を抱き締めた。

 それ以来、斗音はこの部屋には足を踏み入れていない。のぞくのもこわごわという様子は、どこまでも痛々しい。引っ越すとはいっても、家具の中身や必要なものを移動しただけだったが、慈恩は思い切って部屋を模様替えしてみた。それでもまだここに入るのは気が進まないようだ。逆に、慈恩が使っていたそのままの部屋は、斗音にとってお気に入りになっているらしい。

慈恩に苦手な物理を教えてもらって、ついでに慈恩の苦手な漢文を少し一緒に勉強して、斗音はある程度満足してベッドに潜った。この部屋にいるのは心地いい。このベッドも、斗音は大好きだった。幼い頃から、発作を起こした夜などは、不安で眠れなくて、慈恩の部屋をノックすることがあった。そうすると、慈恩は寝ぼけ眼であっても必ず起きてきてくれた。
「・・・眠れないのか?」
 いつもそう言って、自分も眠いのだろう、目をこすりながら手招きして、ベッドを半分開けてくれた。
「発作起こしたら・・・絶対気づくから・・・・・・安心して寝てろよ・・・」
 斗音がもぐりこんだら、すとんと眠りに落ちてしまう慈恩だったが、その一言で、心底安心して眠れた。だから、このベッドは斗音にとって安らかな眠りを与えてくれるものだったのだ。
 慈恩がいなくなってからは、それを思い出すのがつらくて寂しくて、この部屋にはほとんど入らなかった。でも、今は違う。あの時のやすらぎと暖かさが戻ってきている。それが嬉しくてたまらなかった。胸にかかる十字架をぎゅっと握り締める。
 三神の仕打ちは、今でも斗音の心を、ふとしたことでいとも簡単に引き裂こうとする。元の自分の部屋は、そのきっかけの最たるものだった。自分の恐怖と狂気が染み付いているようで、見るだけで震えが来る。慈恩がだいぶ模様替えして雰囲気はがらりと変わったので、少しほっとしたのだが、それでも躊躇いが大きい。そのストレスで発作を起こすのも、怖かった。でも、いつまでもそんなものに囚われていたくなかったし、早く乗り越えたいという強い意志が、斗音の中にはあった。

 突き放して、ひどい言葉を浴びせて、傷つけてしまった大切な人たち。でも、失っても仕方ないはずの人たちが、みんなして手を差し延べてくれた。慈恩はもちろん、嵐も、翔一郎も、瞬も・・・瓜生も。それがどれだけ自分を支えてくれたことか。どんなに救われたことか。そして、どんなに嬉しかったことか。何よりも彼らのために、自分は全てを乗り越えることで応えたかった。斗音の目を瞠る回復ぶりは、その強い意志にも大きく起因していた。

 斗音が休んでとりあえずほっとした慈恩は、部屋の机の上で、ふと携帯がちかちか光を放っているのに気づいて、それを手に取った。斗音の部屋に行っている間に、一件の着信と、メールがあったらしい。
(・・・あぁ)
「件名:料理名人へ
 本文:今日はご馳走様。お前ってほんと尊敬する。斗音のことも、俺は尊敬する。またそっちへ遊びに行くよ。おやすみ。」
 思わず笑みがこぼれる。長い指でゆっくりと、返信の言葉を綴る。ボタンを押すたびに、携帯につけられた十字架のストラップが、小さく揺れた。
「件名:どういたしまして。
 本文:口に合ってよかった。またぜひ斗音にも会いに来てほしい。おやすみ。PS:手ぶらで来ればいいからな。」
 
悠大の苦笑いや舌打ちが目に浮かぶ。でも、斗音を認めてくれた悠大が、嬉しかった。
「さて、と」
 明日からは春休みだ。部活はあるが、今日くらい、少しだけ夜更かしをするのは構わないだろう。もうひとつ、着信履歴の方を選択して、発信ボタンを押す。コールが、一回・・・二回。
『もしもし』
「遅くにすみません。俺です」
『ああ・・・久しぶりだな。・・・・・・なんて呼んだらいい?』
 あまりに今更な問いに、思わずベッドに腰掛けながらくすっと笑う。
「なんて呼ぶつもりだったんです?」
『・・・・・・考えてなかったから、今訊いてんだろうが』
「俺はなんて呼ばれても構いませんよ。呼び方を変えるのに違和感があるなら、今まで通りでも」
『・・・・・・椎名。元気そうだな』
 その選択が、慈恩は何だか嬉しかった。長い脚を組んで、長期戦に備える。
「ええ。・・・・・・近藤さんも。今日は、大学の合格報告・・・ですか?」
『何で分かる?』
「いえ・・・先輩方から少しずつ聞いてるので」
『今井・・・・・・あの野郎』
 くすくす、と、変わらない様子が懐かしくて、慈恩は笑った。今井が東大に受かったことは、本人からも斗音からも聞いていた。ついでに、近藤が同じように受かっていることも。それでも、春休みに入るまでかけてこなかったところが、近藤らしい。朝練があることを考慮したのだろう。
「さすが、という所ですね。如月の先輩方は」
『・・・・・・お前は?』
 突然訊かれて、何を訊かれたのか分からずに、慈恩が戸惑う。
「俺・・・・・・?」
『大学。自由に選べるのか』
 
・・・・・・ああ、そうか。と、納得する。近藤が、間接的にではあるが、斗音の救出に関わってくれていたことを思い出したのだ。そのつながりから、自分の情報も届いているのだろう。小さく吐息して、軽く目を伏せる。
「選びますよ。あっちがどんな条件を出してこようと、俺はもう、飲むつもりはありませんから」
 あの事件以来、慈恩の九条家での立場はかなり強くなった。九条家が弱みを抱えたという部分もあるだろうが、重盛を怒気で威圧した慈恩に、逆らえる者がいなくなったことも大きかった。もちろんそれ以降、図々しい態度をとるような慈恩ではなかったが、誰も逆らえなかった重盛自身が、慈恩に対して一目を置くところが増えたのだ。
『そうか。だったら、話は早い』
「はい?」
『お前も東大に入れ』
 何度か瞬きをしてから、慈恩は小さく唸った。
「基本的に、国内最高の難関大学ですよね、それ」
『入れるだろ、お前なら』
「・・・・・・・・・・・・近藤さんは、いつも俺を過大評価しすぎですよ」
 軽く溜息に近い吐息をこぼす。そして、でも、と続けた。
「また、あなたと剣道をやれるのなら・・・悪くないかもしれない。選択肢の一つとして考慮はします。・・・・・・ただ、斗音が別の大学を望んだとしたら・・・・・・俺はきっと・・・」
 わずか言いよどんだ先で、近藤の苦笑が聞こえた。
『・・・・・・そうか。分かった。だったら、お前の兄貴にも東大を勧めるとしよう。ていうか、兄貴でも十分入れるだろう。それ以外に志望する大学とか、あるのか?』
 確かに、東大には様々な学部がそろっているし、斗音の能力なら、そのどこでも通用するだろう。けれども、斗音にとって、もう一つ魅力的な大学が、ある。
「・・・・・・東京学芸大・・・」
『東京芸大?・・・まさか、とは思うけど・・・芸術スポーツ文化・・・とか?』
「さあ、そこまでは。でも、可能性はゼロじゃない・・・と思います」
 数少ない公立大学でのスポーツ専門学科。当然、倍率も高く、東大ほどとは言わなくても、難易度は高い。
『・・・・・・瓜生、ね。俺も詳しくは知らないけど、あいつ、随分お前の兄貴の近くにいたんだな。でも、お前もそうだけど、大学ってのは将来のことを考えて選ぶもんだろ?そいつがいるからって、その大学に行く、なんて決めるか?』
(いや、それをあなたが言いますか)
 
ツッコミを入れそうになって、慌てて理性で抑え、そんな自分に笑ってしまった。何より自分が、その基準で選ぼうとしていたではないか。
「・・・そうですね。それにしても、少し、気の早い話のような気がしますけど」
『俺としてはそうでもないんだけどな。・・・お前、もう少し時間あるか?』
「・・・ええ、構いませんよ」
『だったらもう少し、俺の話に付き合え』
「そうですね。久しぶりですから・・・近藤さんの毒舌を聞くのも」
 付き合いますよ、と笑いながら返す。最初からそのつもりだ。
 部屋の明かりを消して、斗音に気づかれないようにする。まだまだ夜は長い。斗音がぐっすりと、ゆっくり眠れるように。
 カーテンからのぞく満月が明るい。綺麗な月だ。とても、安らかな。
 ささやかな月影が、慈恩の手元で、十字架にキラキラと反射して踊っている。

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蒼 紫月のつぶやき

 こちらは、このブログの執筆者の、ちょっとした独り言ですhappy01

 死ぬほど更新してなくて本当にすみません。とりあえず、日々生きていくのが精いっぱいなくらい、やることが山積みで、なかなか自分のやりたいことに割く時間がありません。番外編をちらりと書き始めてから軽くすでに1年経過してるんですが、それすら途中でストップしてしまっている状態です。1か月くらい、仕事が休みにならないかなぁ(笑)。続き、書けたらいいです、何てほざいておきながら、年単位でやらないとか、申し訳なさ過ぎて…bearingsign01できることならやりたいという気持ちは健在なのですが、いつの間にかココログの小説の投稿も打ち切られてたんですねcoldsweats01。それすら知らなかった…gawksweat02。続きとかだったら構わないのかな?

 2011.11.12

 …お、お久しぶりで…すcoldsweats01。全然更新なくてスミマセン。最終章をアップしてから、もうすぐ1年です。コメントを残してくださった方から、続編や番外編へのささやかなエールを頂いたりして、嬉しい限りです。
 で…本編を書いたときとはちょっと違う、軽いノリで彼らのその後を思い描いてみたりして…みたりしてみたりしたんですけど…う~んダメだ、ちゃんと考えないと続かない。楽しく書いてはみるんですが、え、で、この先どうするつもり?って行き詰まっちゃうんですよね。もう少し、どっぷり考えたり書いたりできる時間がほしいです…。

 2010.7.13

 今年後半は正直放置状態でしたが、お付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。来年また何か新しいものに挑戦できたらいいな、と思いますが、番外編とかも何か思いついたらいいな~と…。(←思うだけなら自由(笑)。)
 それでは皆様、よいお年をお迎えくださいませhappy01sign01

 2009.12.30

 クリスマスですねhappy01xmasnotes9月に「十字架の絆」の最終章を更新して以来、全く更新がなくてすみませんcoldsweats01sweat01。たまにのぞいてみたら、なんか様式が「続きを読む」になっていたりして、びっくりして直してみたりはしましたが、何か新しいものを紹介させて頂けるほど、何かできているわけでもなく、ただ日々仕事に追われています。
 でも、クリスマスといえば、丁度彼らが斗音奪還に成功した日…だったりするので、ほんのり出没してみました。今年は寒波がやってきて、雪が降ったりもしましたが、今日は比較的暖かいそうです。そのあたりの場面を更新していたのが、残念ながら真夏だったので、こんな季節だったんだな、なんて、ちょっと思っていただけたりしたら、とっても嬉しいですhappy01note
 みなさまは、ぜひよいクリスマスをお過ごしくださいませconfidentpresent

 2009.12.24

 十字架の絆、ついに最終章です。1年という長期間にわたってののんびり更新でしたが、こんな拙い文章に目を留めてくださった方、読んでくださった方、そしてこのスローペースにお付き合いくださった方、本当にありがとうございました。斗音と慈恩の物語については、一応これで完結です。学校生活の中にある、ささやかな楽しさとか感動とか、そういったものを描きたいと思って書き始めた物語だったので、色んな寄り道があり、なかなか進まなかったり演出不足のところがあったり、もう、なんて言っていいか、惨憺たる有様でしたが、とりあえず自分なりに終わりまでたどりつけて、ほっとしています。ただ祈るのは、この結末で、この物語にお付き合いくださった方に、ご不快な思いをさせてませんようにってことで…coldsweats01sweat01

 自分でここまでたどり着いたオリジナルの物語というのは初めてですが、ここまで彼らの世界と付き合っていると、それなりに登場人物にも愛着が湧いてきたりします。そして、思い通りに動いてくれなくなったりします(笑)。思わぬところで意外な人物が仲良くなっちゃったりとか、ちょっと待て、お前、自制心はどこへやったー!とか、お前らいつの間にコント軍団になったよ、とか、まぁ色々と…。読んでくださった方にも、気に入っていただけるような人物が一人でもいたら、幸せだなぁと思います…。

 この物語の中で、色々と布石のままで終わってるのが、嵐に関わる人たちです。登場人物紹介で、「嵐の世界」「裏の世界」などと紹介されている人たちは、この物語の世界ではない、別の物語で生きている人物たちだったりします。よって、この物語では明るみに出ないことも多かったです。とはいえ、そちらの物語のほうは、未完成も未完成、ほとんどは自分の脳内保管で、文章化できてる部分がアナログでぽちぽち、デジタルで0.5%未満という状態なので、こちらでご紹介できる未来が、今のところ全く見えません…despairsweat01。そもそも、「十字架の絆」も、6年間ほどコツコツと書き溜めてた代物だったので、次の作品がさくっとできたりするわけでもなく…。色々と申し訳ありませんっbearingsweat01sign01でも、もし、今自分の中に生きてる色んな人物や物語を形にすることができて、また紹介できるまでになれば…と、思ってもいます。

 何はともあれ、ひとまずここまで、ありがとうございましたhappy01sign01

 2009.09.12

 久々にギリギリ更新ですみません…coldsweats01sweat01。たまたまつけてたテレビでジャングル大帝が始まって、何とはなしに見てたんですけど、パンジャがかっこよすぎて泣けました…sign01いつだったか図書館で読んだ気がするんですが、その時もパンジャってかっこいいなって思った覚えがあります。ストーリーは全然覚えてなくて、こんなハイカラな話だっけ?って思ってたんですけど、現代風にアレンジしてあるのかな。
 さて、それはともかく、いよいよ次回で最終回です。今回の章は、こちらのブログで載せ始めてから書いた部分で、三年生たちを書くのがすごく楽しかったです。できればもう少し、斗音の見せ場を作って…って思ってたのに、今井が全部持ってってしまいました。う~ん。もう、完全に生き者ですね…。(←制御能力に欠けているようだ。)

 2009.09.05

 「十字架の絆」53章まできました。残るはあと2章です。長文だっただけに、それなりに片を付けたいことが多かったです。あと少しですが、お付き合いいただければ幸いです。

 2009.08.29

 50章です。この章が、この物語の最長の章です。変換作業は2日前からやってましたが、パソコン止まりすぎで(笑)。待ち時間が長かったこと長かったこと。無事に更新できてほっとしました。そんなどーでもいい裏話のあった50章だったりしますが、お楽しみいただけたら、ありがたいと思います。

 2009.08.08

 49章、場面がぐるぐる変わります。いろんな人たちがいろんな場所で、それぞれに動いてます。最近注意事項載せてませんが、ここにもやっぱりよろしくない場面がございます…配慮が足りなくて申し訳ないですcoldsweats01。ていうか、なんかあちこちにあれな場面が…。いつの間にかそんな感じになってきてますが、この物語もあと少しです。最後までお付き合いいただければ、幸いです。
 あと、アバターというのを作ってみました。携帯の方では出るかどうか定かではありませんが、いろいろ仮想空間で遊べるらしいです。…最近のネット空間ってすごいですね…。

 2009.08.01

 今回、48章は、いつもより短いです。すみません。今回は、終幕に向けての序章的な部分ですので…。次回からしばらく長い章が続く予定です。が、あまり長いので、一つの記事に載せられるかどうか…。容量が小さいパソコンのため、止まっちゃうんですよね…coldsweats01

 2009.07.25

 物語は急展開…したつもりなんですけど、一気に(笑)。最初の一言がこの章の全てを語っていますっていう46章です。またまたあまりよろしくない展開で申し訳ないです。
 あと、こつこつ更新してきた人物紹介が、そろそろ今現在登場している人物、ほぼ紹介できてるくらいになったので、新登場の人物が現れるまで、しばらく停滞すると思います。…出るかな?新しい人…。

 2009.07.10

 今回、Up dateにも記載させていただきましたが、読まれる方にとっては過激だと思われる展開かも…と思いましたが、どんなもんでしょうcoldsweats01。物語のほうもかなり終盤に向かっております。紆余曲折しつつですが。

 2009.6.20

 現在アクセス解析に障害が発生しているらしくて、せっかく更新しても、見に来てくださっている方がいらっしゃるかどうかすら分かりません。…ちょっと寂しいです。(※5月31日20時現在、復旧した模様ですnote3日くらいで直りましたが、こういうトラブルに自分が遭遇するのは珍しいので、びっくりしました…。)
 もう四十章まできたんだな~と思うと、感慨深いです。完全に季節を逆行しているこのお話なんですが、夏に向けて更新するにつれ、だんだん冬になっていくと思います(笑)。しまった…冬に始めるべきだったかも…coldsweats01

 2009.5.30

 やっと田近くんの名前が出てきました(笑)。登場人物紹介に名前を追加しておきました。こちらのコーナー、少しずつ更新しております。よろしければ見てやってくださいませnote

 2009.5.16

 煙草…最近は自販機で買うには、Taspo?がいるんですよね?100%いるんでしょうか。自分は煙草苦手なので、縁がなくて……最近の事情にはあまり詳しくありません。というわけで、そこは敢えて触れていませんが、時間軸的に、現代事情より少しだけ前…みたいな感じでcoldsweats01。さらりと流していただければありがたいです~happy01sign01

 2009.4.18

 一番書きたかった、学校行事最大のイベント、如月祭が無事(か?)終了しました。今回更新が土曜日中にできなくて申し訳ありませんでしたーーーっヾ(_ _*)sign01いや…この章の長さに、うちのパソコン何度も固まってしまい……どーすんの、もっと長い章ありますけどcoldsweats01?と、焦りまくりでした…。来週も忙しい上、予定が入っていたりするので、頑張らせていただくのは大前提で、遅れたらすみません、すみませんっbearingsweat01sign01
 平日の登場人物紹介は、何とか少しずつ更新しております。今回遅れてしまったので、平日ではありませんが、お詫びとして一人追加させていただきます~…よぉし、もうひと頑張りっsign01

 2009.4.5

 新たに登場人物紹介のコーナーを設けてみました。色々理由はあるのですが…ひとつは、ブログという形での小説ですので、読みにくい漢字などの読みを表記することが、あまりできないためです。初登場時は、読みにくい固有名詞などに( )で読み仮名を付け加えていますが、それ以降は一切表記がありません。特に、人の名前というのは読みにくいものがあると思いますので、参考にしていただけたら、と思います。
 もう一つの理由は、だんだん小説が長くなるにつれて、登場人物も多くなってきて、しかも一度登場してから次に登場するまでに期間が開いたりすると、「これ誰だっけ?」てなこともあるのではないかと…。どうしても更新ペースを上げることができないので、時折こちらの人物紹介くらいは、平日にも更新できれば、と思ってます。(ていうか、まだほとんど書けてないのですが、ひとまず主人公だけcoldsweats01。)
 ただし、コーナーの頭にも書かせていただきましたが、小説を読まずにこちらのコーナーを読まれると、ネタバレになっているところもあるかもしれないので、そのことはご承知の上で閲覧をお願いしますsign01でも、小説読むのはめんどくさいけど、どんな人間が出てくるのかな、くらいの感覚で読んで頂けるのであれば、本望ですhappy01note

 2009.3.25

 以前、UP DATEのところでも書かせていただきましたが、前回も今回もこれでもかというくらい色んな作品が登場します。本作品はフィクションですので、それらの作品とは一切関係ございません。そして、以前こちらにも書かせて頂いたのですが、この作品では、学園生活そのものを描くことで、あちこちにある楽しさや感動を表現できたら、と思っております。回り道したり寄り道したり、いっぱいあるかもしれませんが、等身大の彼らに共感していただければ、ありがたいと思いますhappy01sign01

 2009.3.14

 場面は遂に如月祭です。物語の最初から、彼らが成功させようと頑張ってきた、学校最大の行事。如月祭は、文化祭が2日間、体育祭が1日の3日間の行事という設定です。彼らとともに、如月祭を巡っているような感覚で楽しんでいただければ幸いですsign01

 2009.3.7

 やっと新たな登場人物が出てきました。
 ところで、ときどき物語の中に、血液型にまつわる性格のことが登場してきますが、医学的には血液型によって性格が左右されることはない、そうです。でも、なんとなく自分の中では、A型は几帳面、B型は積極的、AB型はAとBの二面性を持ち合わせ、O型は大雑把というイメージがありますcoldsweats01。(←自分は典型的なO型だと思ってます(笑)。)

 2009.2.21

 週に一度しか進まないのに、展開が遅くて申し訳ないです…coldsweats01
 ところで、あの人の心情に変化があったように見られますが…基本路線が変わったわけではありません。色んな意味で貪欲な人のようです。

 2009.2.14

 インターハイが終わって、物語が進み始めました。(←今まで進んでなかったんかい。)以前、コメントの返信でも書かせて頂いたのですが、ココログ小説に投稿する際、ジャンルのタグをいくつか選んだのですが、その中で「コメディ」ってあるんですよね。…こんな展開にしておいて、ほんとにコメディなのか、とcoldsweats01
 ……いや、本筋はシリアスです、かなり…。ただ、面白く書きたい、と思ってる部分もあって、コミカルな場面があるのも確かです。ていうか、そのつもりで書いたはず、なんですけど…。今回も笑えない展開ですね、あははは…はは…。(チーンgawksweat02

 2009.2.7

 頭が未だにあけましておめでとうございますはどうかと思いまして…coldsweats01
 ようやく剣道の試合が終わりました。でも、インターハイは終わりません(笑)。次はバスケットボールです。剣道もバスケも、自分は素人ですが、競技そのものにはすごく魅力を感じます。どちらも、学生にとっては身近なのに、一般的には今ひとつマイナーなスポーツのような気がします。でも、やっている人にしてみれば、それが自分の生活の一部を占めるくらい、心惹かれるものだと思います。そんな気持ちを書いてみたいがために、なかなか終わらないインターハイ(笑)。もう少しお付き合い頂ければ幸いですhappy01sign01

 2009.1.24

 あけましておめでとうございますsign01昨年いらしてくださった皆様、本当にありがとうございましたo(_ _)oペコッ。今年も、できるだけペースを守って頑張っていこうと思います。どうぞよろしくお願いしますo(_ _)oペコッ再び。
 新年とはいえ、物語の中では夏休み真っ最中です。そして、なかなか終わらないですね、剣道個人戦coldsweats01。専門的な言葉や方言なんかも出てきますが、剣道の技はともかく、方言は方言辞典やネットで調べたものなので、かなり感覚的だし、おかしなところもあると思います。更に、意味の分かりづらい言葉もあると思いますが、その辺はフィーリングでさらっと読んでいただければありがたいです。それでも、どうしても分からない、知りたいと思われる部分がありましたら、コメントなどでお知らせいただければ、お答えできる範囲で返信させていただきます。色々分かりづらくってすみません~…happy01sweat01sign01

 2009.1.4

 こちらをブログ形式で、新しい独り言が上に来るように変えてみました。毎回毎回、最後のページまで見るのって、面倒ですよね(笑)。
 週に一回、なんとか一章更新を目指している、こちらの小説ブログですが、2008年は十八章までで、来年に続く、という形です。剣道個人戦の真っ最中で年越してすみませんcoldsweats01
 8月末から始めたこのブログですが、今年来て下さった皆様、本当にありがとうございました。来年もお越し頂ければ幸いですhappy01noteどうぞよいお年をお迎えくださいませo(_ _)oペコッ。

 2008.12.30

 作品中ではインターハイが始まって、バスケットボールや剣道を主に取り上げていますが、どちらも自分はど素人ですcoldsweats01。特に、これを書いた当時は、剣道の本を借りてきたり、試合を見に行ったり、剣道の経験者に色々話を聞いたりして、それらしくしようと思って頑張りました。が、やっぱり経験してらっしゃる方から見たら、足りないところやおかしな表現があるかもしれません。あったらごめんなさい…です。

 2008.12.20

 本日「十字架の絆」十五をUPしましたが、とにかく長かったせいなのか、何度もココログの「リッチテキストモード」に拒否られました(笑)。これでないと、とてもじゃないけど日本語の編集はできないので、必死にやっておりましたが…勢いに任せて書いた所もあったようで、誤字脱字を直す時間も含めると、三時間半ほどかかりました(笑)。無事投稿できて、ひとまずほっとしてます。
 でも、この場面、勢いに任せてる分、かなり熱は入ってますhappy01。楽しんでいただければありがたいです。

 コメントには、特に理由がない限りは、返信させて頂きたいと思います。返信は頂いたコメント内にて、書き込ませていただきますので、よろしくお願いしますhappy01note

 2008.12.06

 こんにちは、蒼紫月(あおいしづく)と申します。現在「十字架の絆」、なるべく週に一度、一章ずつ更新しようと頑張ってます。誰か一人にでも読んでいただければ…楽しんでいただければ、と思って、「みんなのココログ小説」(携帯サイト)に投稿中です。携帯で御覧の方には、プロフィールなどを見ていただくことができないので、こんなコーナーを作ってみました(笑)。
 これ、実はワードで綴ってる小説を、ココログに貼り付けて記事にしてるんですけど、なかなかうまくいかないんですよね、なぜかcoldsweats01。意図しないところでやたら行間が開いてしまったりするんです。最初の四章くらいまでは、なぜか文字の大きさにもばらつきがあったりして、すごく申し訳ない気がするのですが、HTMLをいじってみても直らないし、そもそも何いじれば直るのかも分からないっていう、素人ですhappy01sweat01。だいぶ慣れてはきましたが、ワードからこちらに変換するのに、軽く1時間くらい費やしてます(笑)。最近は文字の大きさがばらつくこともなくなってきたし、行間がやたら開くのもなくなってきたような気がしますが、それがなぜなのかは未だに自分で分かっていません。ぅうむ。

 「十字架の絆」は、6年くらい前からコツコツ書いていた代物で、長編になる予定です。誰にでも経験のある学園を舞台にしているのですが、自分自身、学生時代の中で何が一番大きなことだったかな、と考えると、毎日の学校生活の積み重ねそのものなんですよね。でも、物語や小説となると、ただそれだけでは成り立たないわけで…。だから、この小説では、大きな物語の流れの中でも、本来の学校生活で誰もが経験する部活動や学校行事、勉強に生徒会活動など、身近なものに精一杯打ち込んでいる学生たちの姿を描いてみたいと思っています。そこに、様々な感動とか喜びとか、いっぱい転がってるんです。
 で、投稿する際に、小説の分類をしなきゃいけなかったんですけど、それが一番難しかったです。SFやポエムじゃないし、文学だなんて恐れ多いし、強いて言えば、恋愛要素はあるかな…ということで恋愛ってことになってますけど、基本的にその恋愛がまともじゃない……coldsweats01。女の子って書くのが苦手なんです…。どうしてもうじうじしてしまうというか…そんでそんな女の子が苦手なんです…。あ、でも、登場人物、男でも時々うじうじしてますねぇ(笑)。…ダメじゃん。根本的にダメじゃんcoldsweats02sign01

 物語を書いてるの、こんな奴ですけど、もしよろしければ、これからも物語に、お付き合いくださいませhappy01
 このコーナーは、時々こちらで補足したかったりする時などに活用…するつもりです。

 2008.11.30

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登場人物紹介

 こちらのページでは、これまで出てきた物語の登場人物を紹介しています。基本的に、登場が遅いほど紹介は下になりますが、現在公開している話までの登場人物を少しずつ紹介していきますので、物語を読んでいないとネタバレになる可能性もあります。お気をつけください。

 十字架の絆

 椎名 斗音 (しいな とおん)
 
この物語の主人公の一人。先天性の気管支喘息を患っているが、基本的に前向きで、何にでも挑戦しようとする積極的な性格。外見は、日本人とフランス人のハーフである特徴が色濃く出ていて、とても綺麗。慈恩の双子の兄であることが誇り。ピアノとバスケットボールのシュートが得意。如月高校2年3組。バスケ部所属。

 椎名 慈恩 (しいな じおん)
 
この物語の主人公の一人。特に両親を亡くしてからは、双子の弟として、身体が弱い斗音を誰よりも気遣っている。黒髪と黒い瞳を持つ長身は、日本の若武者を思わせる。有能だが、あまり表に出たがらず、とても落ち着いた性格。剣道は全国大会の常連の腕前。料理や家事が得意。如月高校2年5組。もちろん剣道部所属。

 近藤 勇鯉 (こんどう ゆうり)
 
如月高校3年3組。剣道部部長。慈恩の剣道の腕と人柄を誰よりも見込んでいる。豪快で自他共に厳しい上、口癖は「死ね」「殺す」。背も高く、整った顔立ちだが、その性格のため、どちらかというと野獣じみたイメージを周りに与えている。剣道はパワーで押しまくるタイプで、全国レベル。

 東雲 嵐 (あずも あらし)
 
如月高校2年5組。バスケ部所属。斗音・瞬・翔一郎と4人で「出来過ぎ集団(パーフェクツ)」と周りから呼ばれているが、その中でも全てにおいて異彩を放っている。髪は淡紫色で、瞳は角度によってグレーに見える。何か秘密裏の仕事をしており、周りとは別の世界を持つ。慈恩の親友。

 樋口 瞬 (ひぐち しゅん)
 
如月高校2年3組。バスケ部所属。「出来過ぎ集団」の一員で、並のアイドル(の女の子)より、遥かにかわいらしい外見の持ち主。髪はやわらかい質と色で長め。ただ、出来過ぎ集団の中では、運動や学力において唯一優れたものをもたない。嵐、特に翔一郎にわがままを言う傾向あり。

 羽澄 翔一郎 (はずみ しょういちろう)
 
如月高校2年3組。バスケ部所属。「出来過ぎ集団」と慈恩を合わせた中では最も長身で、ジャンプ力はピカイチ。爽やかで優しい好青年。相手の気持ちを汲み取ることができ、周りにさり気なく気を遣える。嵐や斗音のよき理解者だが、なぜか瞬と話していると、コントになってしまうことがある。

 今井 史弥 (いまい ふみや)
 
如月高校生徒会長。3年1組、テニス部部長。全校からの信頼は厚く、そのリーダー性はやはり全校一。全校の前でもタメ口。同じく執行部に所属する莉紗と付き合っている。斗音の有能さやリーダー性をかって、副会長に推した。知性を漂わせる風貌で、影ながら斗音や慈恩を見守っている。

 伊佐治 莉紗 (いさじ りさ)
 
如月高校生徒会執行部員。3年5組、女子バレー部部長。執行部の紅一点で、今井と付き合っている。ショートボブで柔らかい髪を持ち、知的だがかわいらしい。女の子らしい気遣いを見せつつ、仕事はかなりできる。時折感情的な部分を見せることがある。

 弓削 清重 (ゆげ せいじゅう)
 
如月高校生徒会執行部員。3年6組、陸上部副部長。ハイジャンプの選手で、その力は全国区。賢い好青年。爽やか系で切れ長の瞳は、鋭い観察眼を持つ。勘も鋭く、周りの人間関係や人の感情を読んでいることがある。中学の時から武知と親友。

 武知 玄道 (たけち げんどう)
 
如月高校生徒会執行部員。3年6組、柔道部部長。柔道は八十一キロ以下級でやはり全国レベル。強面でドスのきいた声の持ち主。中学時代はヤンチャな集団のボスだったはずだが、なぜか弓削とその頃から親友だった。磊落で率直だが、根は優しい。

 藤堂 大河 (とうどう たいが)
 
如月高校生徒会執行部員。2年2組。サッカー部所属。明るく快活で、積極的に前に出るタイプ。言葉遣いなども、スポーツ少年らしい元気のよさがある。学力的にもかなり高いものをもっている。が、執行部の中では時々いじられキャラになる傾向がある。

 田近 允(たぢか まこと)
 
如月高校2年4組。剣道部所属。剣道部の中では、比較的慈恩と仲がいい。剣道の腕は、2年生の中では秀でているが、慈恩がいるので目立たない。でも、そんなことはお構いなしで、慈恩をとても慕っている。ツッコミキャラ。クラスでは級長を務めている。

 九条 絢音 (くじょう あやね)
 
九条家の一人娘。34歳に見えない若々しさと、美しい黒髪と黒い瞳の美貌を持つ。桂家から雅成を夫に迎えるが、二人の間にまだ子供はいない。清楚で上品な雰囲気の持ち主だが、その気性はなかなかに激しい。でも、心を許す相手には天真爛漫さも見せる。金銭感覚が、やや麻痺している。

 稲垣 (いながき)
 
如月高校2年5組。テニス部所属。「黒髪の美人」の噂を広げた張本人。

 徳本 (とくもと)
 
如月高校3年3組。バスケ部部長。斗音の喘息のことも副会長の仕事のことも、ちゃんと理解がある。バスケットではセンターを務める。

 岡崎 (おかざき)
 
如月高校3年3組。バスケ部所属。斗音に続く№2シューター。足は速いが、やや瞬発力に欠ける。

 門真 (かどま) 佐野 (さの)
 
如月高校3年3組。バスケ部所属。

 佐々 (ささ) 宮本 (みやもと) 高野 (たかの)
 
如月高校3年。バスケ部所属。

 椎名 ノエル (しいな のえる)
 
斗音と慈恩の母親。フランスの田舎出身。美しい金髪と美貌の持ち主で、クリスチャン。もともと身体は強くなかったが、綺麗な空気だったところから東京へ来て、気管支喘息を患った。斗音と慈恩と絽登を、心の底から愛していた。

 椎名 絽登 (しいな ろと)
 
斗音と慈恩の父親。ノエルとの結婚を反対され、身内とほぼ絶縁状態になりながらも、ノエルを選んだ。外交官として成功したが、ノエルを失ってからは仕事にのめりこみ、家にもいないことが多かった。斗音と慈恩とノエルを、こよなく愛していた。

 三神 元爾 (みかみ げんじ)
 
九条家に仕える使用人。27歳。絢音のボディーガード兼運転手。柔道・空手が三段、合気道二段の腕前。190cmを超える長身で、腕力、脚力ともにとても強い。切れ長でややつりあがった瞳や眉は、精悍な印象。女性に魅力を感じることができない性質。

 九条 雅成 (くじょう まさなり)
 
絢音の夫。九条家より家柄の劣る桂家からの入り婿のため、九条家での権限は強くない。絢音のお嬢様っぷりに振り回されながらも、穏やかに絢音を愛し、慈しんでいる。優しく控えめだが、芯は強い。

 橋本 (はしもと)
 
如月高校3年。剣道部副部長。剣道の腕はなかなかのもの。精神的にムラがなく、強引な近藤をさり気なくフォローしている。団体戦では中堅を務める。

 瓜生 英嗣 (うりう えいじ)
 
如月高校3年3組。ボクシング部部長。如月高校のおちこぼれ非行少年らのボス的存在。喧嘩も腕っ節も強く、鍛えられた体躯をしている。長めの茶髪で前髪がやや鬱陶しい。耳には沢山のピアスをつけている。如月の学力についていけないことにコンプレックスをもっている。

 栃沢 貢平 (とちざわ こうへい)
 
如月高校3年。バンドを組んでいて、所属してはいないが、軽音楽部に出入りしている。そり立つ眉にオレンジ色に染め抜いた髪をもつ。おちこぼれ非行少年らの中では、瓜生に続く№2。高校生のくせに喫煙者。

 志垣 夕人 (しがき ゆうと)
 
如月高校3年。瓜生の取り巻きの一人。金髪。

 佐藤 渡 (さとう わたる)
 
如月高校3年。瓜生の取り巻きの一人。茶髪のだぼだぼ。

 九条 重盛 (くじょう しげもり)
 
九条家の前当主。現在はその座を娘・貴美枝の婿養子に譲っているはずだが、未だ九条家の最高権力者。家意識が強く、そのためならどんな犠牲も他人に強いる、他人に有無を言わせない強さをもつ老人。

 九条 貴美枝 (くじょう きみえ)
 
九条家現当主の妻であり、絢音の母。現当主が入り婿ということで、むしろ貴美枝の方が権力をもっている。家意識は相当強い。

 斯波 安土 (しば あづち)
 
暴力団斯波組の二代目組長。裏の世界の住人だが、表では東洋医学専門家として、整体や気功術、針治療、漢方の処方などを行う。黒髪、黒い瞳をもつ長身の美丈夫。28歳だが、やや童顔で23~4に見えることにコンプレックスを感じている。嵐の裏世界の親友だが、嵐に好意を寄せているらしい。

 九条 智満 (くじょう ともみつ)
 
貴美枝の夫。九条家に婿入りしたが、そのため九条家での権力は小さい。影は薄いが一応現九条家当主。

 安江 (やすえ)
 
如月高校養護教諭。斗音はよくお世話になっているので顔なじみ。三十代の女性で、生徒の相手はお手のもの。

 沢村 水那 (さわむら みずな)
 
九条家の使用人。いわゆる家政婦さん的な仕事を任されている。でも、某家政婦さんとは違って、他人のプライベートには決して深入りしようとしない。料理が得意。

 九条 美弥子 (くじょう みやこ)
 
貴美枝の妹。九条の分家に嫁いでいる。家意識が高すぎて、他人の気持ちは二の次。自己中心的で視野が狭い。

 滝 拓海 (たき たくみ)
 
滝総合医療院の天才医師。金に近い茶髪は自前で、背の中ほどまであり、見事な巻き毛。神の寵愛を一身に受けたかのような美貌の持ち主で、19歳に見えない落ち着きっぷりを見せる。嵐のもつもう一つの世界の知り合いで、嵐が心底惚れ込んでいる人物。暴走族の頭という噂もあるが、真相は不明。

 若園 (わかぞの)
 
如月高校3年3組。剣道部所属。スピードにはある程度自信を持っており、技と速さを併せ持つ。団体戦では先鋒を務める。

 楠 (くす)
 
如月高校3年。剣道部所属。パワー派の選手で、同じパワー派の近藤の強さを誇りに思っている。団体戦では次鋒を務める。

 篠田 (しのだ)
 
如月高校教諭。剣道部顧問。若手で二刀流の使い手。かなりの技量の持ち主だが、過去に大きな怪我をしており、現在は専ら指導専門。選手の力を上手く活かすことができる。

 隼 刀威 (はやぶさ とうい)
 
出雲第一高校2年。剣道部所属。実家が剣道の道場を営んでおり、その跡継ぎとして幼い頃から剣道を叩き込まれた、関西系訛りの天才少年剣士。性格は基本直球ストレートでお茶目なのだが、時折正直すぎて顰蹙(ひんしゅく)を買うことも。慈恩を永遠のライバルと認識している。

 飛馬 要 (あすま かなめ)
 
出雲第一高校3年。剣道部部長。真面目で融通が利かないと隼に称される部長だが、威厳と実力は本物。隼と五分五分に渡り合う力を持つ。隼の力を認め、おっちょこちょいの彼をよくたしなめている。

 出雲第一高校剣道部3年生のみなさん (いずもだいいちこうこうけんどうぶさんねんせいのみなさん)
 
出雲第一高校3年。剣道部所属。スキンヘッドの一人は野津というらしい。隼が2年生にして抜きん出た実力を持っているのを快く思っていない模様。レギュラー陣はそうでもない。

 鈴来 (すずき)
 
東海学園付属高校3年。バスケ部所属。優勝候補の熊本県代表校でエースを務める選手。

 木下 康司 (きのした こうじ)
 
如月高校教諭。バスケ部顧問。30台半ばであだ名はプーさん。現役選手ではないため相当体格はいいが、審判のライセンスもあり、指導者としての腕はかなりのもの。とても気さく。

 百瀬 (ももせ)
 
如月高校2年。剣道部所属。パワー派で、実力は田近と同等のレベル。3年生引退後は大将を務める。

 斉木 (さいき)
 
如月高校2年。剣道部所属。大変強気で勢いがある。掛け声は「うらぁ!」3年生引退後は先鋒を務める。

 小林 (こばやし)
 
如月高校2年。剣道部所属。小柄でスピードと引き技に長けている。3年生引退後は中堅を務める。

 堂本 (どうもと)
 
如月高校2年。剣道部所属。粘り強く、スタミナがある。慈恩を慕っている。3年生引退後は次鋒を務める。

 和田 (わだ)
 
桜花高校2年。剣道部所属。くるっとした目が特徴で、自分の感情に素直。剣道部のムードメーカーの一人。慈恩にクラスで初めて話しかけた人物。家柄はそれほどよくない。団体戦ではぎりぎりでレギュラーに入るくらいのレベル。

 櫻木 (さくらぎ)
 
桜花高校教諭。慈恩のクラスの担任。淡々としており、堅いイメージ。

 近衛 悠大 (このえ ゆうだい)
 
桜花高校2年。剣道部部長。慈恩のクラスで学級代表を務める。家柄は申し分なく、鉄壁の優等生を演じており、他人とは一線を引いた接し方をしている。先生や生徒たちからの信頼も厚いが、実は結構な皮肉屋で、自分が家の駒になることを嫌っている。慈恩を慕い、慈恩にだけは本音で接する。

 東坊城 美陽早 (ひがしぼうじょう よしひさ)
 
桜花高校2年。剣道部副部長。とてもお人好しで、幼い頃からやっている剣道の腕以外は平凡な少年。家柄は悪くないが、その性格ゆえ周りからあまり評価されていない。

 秋月 (あきづき)
 
桜花高校2年。剣道部所属。団体では先鋒を務めることが多い、スピードを持つ選手。気が優しく、よく他人のフォローをしている。

 名鏡 (めいきょう)
 
桜花高校で校医を務めている20代の男性。心理学にも長けており、カウンセリングなども行っている。

 近衛の母 (このえのはは)
 
悠大の母親。着物の似合う上品な女性。おしとやかな夫人を装ってはいるが、とても賢く、自分の考えをしっかり持っている。家柄意識はそれほど高くない。

 松平 光郎太 (まつだいら みつろうた)
 
近衛の能の家庭教師。兄は蝶郎太。お家意識に縛られた、たいそう腰の低い青年。慈恩に鼓を教えた。

 鷹司 (たかつかさ)
 
桜花高校3年。元剣道部部長。高貴な家柄と冷酷なその性格で、剣道部を意のままに牛耳っていた。家意識に関しては超保守的。縁なしの眼鏡をかけており、全体的にスタイリッシュなルックスの持ち主。

 コーチ (こーち)
 
桜花高校剣道部のコーチ。道場の師範を務める人物で、学校の教員ではない。故に、技術指導はできるが、学校の方針にはあまり口出しできない。

 睦田 (むつだ)
 
桜花高校教諭。剣道部顧問。剣道はちょっとしか経験がない。自分の休みを確保することにはたいそう積極的。

 鳳 真聡(おおとり まさと)
 
桜花高校2年。剣道部所属。団体では中堅を務めることが多い。慈恩を超える長身の持ち主で、パワーがある。優しく紳士的で、家柄もよい。

 一乗寺 (いちじょうじ)
 
桜花高校2年。剣道部所属。日本舞踊の家元の嫡男で、あまり部活に参加できないが、ムードメーカーの一人。クラスでは学級代表を務める。

 高天 和史 (たかま かずし)
 
鷹羽学園高校2年。剣道部所属。白金にまで脱色した髪にピアスの異色の剣士。どうやら嵐の世界に関わりがあるようだが…。

 氷室 煉 (ひむろ れん)
 
如月高校生徒会後期執行部員。1年5組。野球部所属。186cmの長身で、1年にして野球部エース。いつも日に焼けていて、とてもクール。冷静で客観的。

 西園寺 果葡璃 (さいおんじ かほり)
 
近衛の許婚。高校3年生。近衛にはあまり関心をもたれていないが、本人は近衛に想いを寄せている。

 巽 (たつみ)
 
安土の側近のようだ。仕事面でも暴力団の組員としても安土にこき使われているっぽい。医師免許は持たないが、西洋医学の技術も身につけている模様。

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