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十五.条件

 早いところでは五月から、インターハイ予選が始まる。如月高校は文武両道の精神のもと、大概どの部も順調に勝ち進んでいた。
 武知玄道部長率いる柔道部は、八十一キロ以下級の武知以下六名が地区予選で優勝ないし入賞を果たし、優勝した武知はインターハイに進んだ。羽澄翔一郎や東雲嵐などの超強力な二年生プレイヤーを抱える男子バスケットボール部は、地区予選で他校を全て圧倒的に蹴散らし、見事優勝。男子テニス部は、あれだけ練習できなかったにもかかわらず、絶対に負けない今井文弥をシングルス1に控え、プレッシャーというものから開放されて戦うことができ、地区で準優勝。強豪ゆえに二チームが全国への切符を手にすることができる大会だったため、目標どおり地区大会を突破した。陸上部はハイジャンプで地区大会新記録を樹立した弓削清重副部長をはじめ、三名が長距離・幅跳びで高記録を残し、その中でも弓削と幅跳びのホープと言われた瀬名が全国に進んだ。伝統ある野球部は、甲子園にはたどり着かなかったものの、まだ一年生のピッチャーが押さえで好投球を見せて、地区予選で準優勝という好成績を収めていた。しかし,あと一歩のところで夏の甲子園を逃した野球部三年生のメンバーは、最後のバッターがライトフライで打ち取られた瞬間、みな悔しがって泣き崩れたと言う。
 伊佐治莉紗が部長を務める女子バレー部は、地区だけでも非常に多いチーム数の中で、全国への切符は逃したものの、見事ベスト4に入った。その他、ソフトボール部・レスリング部・新体操部・ハンドボール部・空手部・サッカー部・水泳部などが地区大会で上位成績を残した。残念ながら、素行の悪い連中・・・・・・つまり、サボりがちなメンバーの多いボクシング部は、ただ一人、部長であった瓜生が地区のベスト8に食い込んだが、それ以外は惨敗であった。暑い中締め切って頑張っていたにもかかわらず、周りに強豪チームが多かったため歯が立たなかったバドミントン部、同様に周りに強豪の多い卓球部・男子バレー部も、惜しいところまでは勝ち進んだが、インターハイへの出場権は逃してしまった。もともとメンバーが少ない女子テニス部や女子バスケットボール部なども、勝ち進むには戦力があまりにも不足していた。そう考えると、女子の少ない如月高校にあってそれでも上位まで勝ち進んだ女子バレー・ソフト部などは快挙と言えた。
 剣道部は近藤部長を大将に据え、副将に慈恩が控え、普段からそんな二人のいる部で鍛えられている中堅の橋本、次鋒の楠、先鋒若園と、慈恩以外は全て三年生のメンバーで団体戦に臨み、どんなチームに当たっても、最初の三人で一勝でもあげればあとは必ず、絶対に慈恩が鮮やかに勝ち、近藤は勝利をもぎ取ってくるので、負けなかった。大体、最初の三人で勝負がついてしまうことも多かったのだ。当然地区大会で団体戦は優勝である。個人戦でも、ベスト4に如月高校の中堅、副将、大将が入るという快勝ぶりである。優勝が慈恩、準優勝が近藤、三位が橋本と、私立高校の強豪、鷹羽(たかば)学園二年生の高天(たかま)という少年だった。鷹羽学園は団体戦でも如月に次ぐ準優勝を勝ち取ったところだった。ベスト4に三年生以外が二人も入るというのは、昨年度、慈恩が一年生で優勝し、二年生の近藤が準優勝したのに引き続き、大波乱であった。
「しかし、今年の如月の成績はすごいな。柔道、剣道、男バス、男テニ、陸上とインターハイだぜ。いつもなら柔道と剣道くらいなんだけどな。しかも剣道の個人戦と来たら、去年と上位二人は変わらずか。すごいな、二人とも敵なしだろ」
 如月祭の準備で二年五組がサスペンス喫茶の衣装や店内装飾、B.G.M、小道具、メニューとレシピ、レジ会計、予算、人数調整と担当配分など、役割分担をするために集まっていた。夏休み早々ではあったが、大体地区予選が終わった頃だったので、クラスで上がる話題は専らその結果に基づくものだった。
 例に漏れずその話題を振ってきたのは、地区大会でチームの得点王となった淡紫色の髪の友人だった。
「近藤さんが強敵だったよ。あの人とやると、本当にきつい。どんなに慎重に試合を運ぼうとしても、強引にくるから受けざるを得ない。荒れるんだよな」
 肩をすくめて見せた慈恩に、嵐はふん、と笑って見せた。
「個人戦はベスト4まで全国だっけ。全国でも近藤さんと決勝だったりしてな」
「知り尽くしてるし、知り尽くされてるだけに、小細工が効かないんだよな」
「小細工するようなレベルじゃないだろ、二人とも」
 図星だったので、慈恩は苦笑するしかなかった。今回は何とか二本とって勝ったのだが、果たして自分の高校部活最後をかけてくる近藤に、この不安定な精神でどこまで太刀打ちできるものか。
 個人戦の決勝が終わった直後、会場から人目に付かない控え室に引きずっていかれ、近藤にも言われたことだった。
『椎名、何小細工で逃げようとしてる』
 言い当てられて慈恩は寿命を削られた気がした。
『最近お前、おかしいぞ。そんなんで全国まで勝ち進む気か。全然集中力が感じられない』
 ぐさっとくる、厳しい一言だった。思わず唇を噛んでうつむくと、剣道着の合わせをつかみあげられた。
『何があった。ちょっとやそっとのことで精神的に崩れるお前じゃないだろう。何かあるなら言え。できるんなら今すぐにでも俺が何とかしてやるから!』
 最後の大会にかける思いが痛いほど伝わってきて、ますます申し訳なくて、まともに近藤の顔が見られなかった。
『すみません』
『誰が謝れって言った!一人で何苦しんでる。それが知りたい。俺には言えないのか』
 言えるわけがなかった。小さく首を振ってもう一度同じ言葉を繰り返すと、近藤はつらそうに顔を歪めた。
『・・・・・・そう、か』
 次にぎこちない手つきで引き寄せられた。それがどういう意味なのか、一度彼から想いを告げられていた慈恩はよく分かった。
『・・・・・・悔いの残る大会にはしたくない。高校を卒業しても、剣道は続けられる。だけど、お前と同じ部でできるのはこれが最後だ。お前と・・・・・・どこまでいけるか最後まで競ってみたい』
『近藤さん・・・・・・』
 そういう惚れ方をされるのは、ある意味慈恩にとって光栄だった。
『俺にできる限りのことを・・・・・・します』
 この部長の最後の大会を、この部長のために精一杯やろう。そう決心した。
(それにしたって、平静でなんかいられないだろう)
 深々と溜息をついた慈恩を、嵐が小首を傾げて見つめた。
「なんだよ。近藤さんと対戦するの、そんなに嫌なわけじゃないだろ?」
「え?ああ、別に嫌なんかじゃないよ。お互いにレベルを高め合える人が近くにいるってのは、ありがたいことだし」
「じゃあ何をそんなに悩んでるんだ。斗音のことか?」
 慈恩は思わず、何も飲んでいるわけではないのにむせそうになった。
(何者なんだよ、こいつはっ!)
 机の上に腰掛けたまま、嵐は軽く、形のいい眉を上げた。
「当たりなのか。そう驚かなくても解るさ。ちょっと前、斗音が一日で三回発作を起こしたことがあったろ。滝さんが言ってた。斗音は何か一人で苦しんでるみたいだって。電話で何かショックなこと聞いたんだと思うんだけど、それを斗音は言おうとしてなかった。・・・・・・斗音が何に苦しんでたかは解らないけど、お前もそのことを知ったんじゃないのか?これは俺の推測でしかないけど、斗音は何か慈恩に関わることで苦しんでた。だから打ち明けようとしなかった。けど、その内容をお前も知る機会があった。斗音がそれだけ苦しむようなことなんだ、お前に関わることだったら、お前だって多少なりと何か精神的にショックなことだったんじゃないかと」
 大当たりである。どうしてこれだけの情報でそこまで正しく推測ができるものか。慈恩は完敗の溜息をついた。この時点で、嵐はもちろん、慈恩も、斗音が一番苦しんだ事実については知らなかったのだが。
「お前はすごいよ、ほんと」
 感嘆の言葉をこぼして、ふと慈恩の心の中に、この頼もしい限りの友人だったら、この状況をどう判断するのか聞いてみたいという、藁にもすがる願いのような興味を持った。
「例えばだ、嵐。滝さんが医学の最高権威の下で勉強できることになって、外国に行くことになったとする。医学界では滝さんのその能力がそれだけ買われてるってことだ。でもお前は高校がある。なかなか会えなくもなる。・・・・・・お前なら、どうする?」
 唐突な質問に、嵐は大きいくせにやや切れ長の目を瞬かせた。
「お前それ、今思いついたのか?」
「そうだけど」
「・・・・・・そうか。じゃあいいんだ」
 やや不可解な言葉を残して、嵐は思っていた以上に神妙な表情になった。
「・・・・・・そうだな。・・・・・・滝さんが行くことを望んでるなら、賛成するよ。望まないのなら、自分の意思表示はしない。滝さんの判断に任せる。ただ・・・・・・もし俺のために行かないなんて言われたりしたら、つらいだろうな。俺があの人の可能性を束縛するなんて、俺は嫌だ。でも、そう思ってくれたら、きっと嬉しいだろうとも思うんだ・・・・・・」
 なるほど、と思う。斗音もそんなふうに思っているのだろうか。
「じゃあ、立場が逆だったら?お前の方が必要とされて、滝さんと離れなきゃならなくなったら?」
 嵐は不審そうにややグレーがかった大きな瞳で慈恩を見つめたが、小さく溜息をついた。
「それも難しいなあ。俺は何をおいても滝さん優先だと思うんだけど、滝さんはそれを許してはくれないと思う。滝さんがそう望んだら、俺はその気持ちを優先させるかもしれない」
「つまり、離れることになっても、行くってことか?」
「そうなるな」
 ほう、と吐息して、嵐は苦笑した。
「そんなことが現実にならないことを・・・・・・祈ってるけど」
 いつもの嵐に似つかわしくない、自信なさげな言葉だった。
(・・・・・・滝さんが望んだら、行く・・・・・・か。斗音は行くことを望んだ。それがお互いのためだと。・・・・・・・・・・・・だったら、俺は・・・・・・・・・・・・)
「そうだな。そんなこと、ないといいな」

 慈恩は少し笑って見せた。そんな慈恩を、嵐は怪訝そうな顔で見つめた。

   ***

 七月末になると、インターハイ地区予選はどこも終了して、全国大会・・・・・・つまり、インターハイを行うための準備が始まっていた。今年は愛知県が会場を担当することになっており、柔道・テニスは豊田市、陸上・バスケットボールは名古屋市、剣道は豊川市で全国大会が開催されることになっている。
 それぞれ開催期日が違うところもあるので、如月高校は応援団のことでおおわらわになっていた。
「私、絶対バスケは応援に行く!」
 そんな女子は多かったし、上を目指せそうな柔道部や剣道部も人気が高かった。
「武知、応援行くからな」
「近藤、頑張れよ。個人でも今年はベスト8狙えよ」
 どうも男子生徒が多いようではあったが。
「俺らの試合の日と剣道の試合の日はうまくかみ合ってるな。八月四日に俺らの一回戦、剣道の団体戦が五日、個人戦が六日、俺らが勝ってたら七日に二回戦だ。大した距離でもねえし、見に行くぜ。どうせ待ってる間は暇だし、体育館は使いっぱなしだから夜くらいしか練習できねえし」
 如月一の美形と名高い嵐が、クラスメイトでもある親友を捕まえてそう言ったのは、七月三十日だった。
「らしいな。俺も見に行く」
 斗音からの情報で、バスケ部の日程と剣道部の日程が見事にずれていることは知っていた。ちょうどバスケ部と剣道部の部活が終わったのが同時刻だったため、出来過ぎ集団と一緒に帰ることになったのだ。
「え、ほんと?知らなかった!俺も絶対行くからね、慈恩!」
 かなり嬉しそうにはしゃいだのが、愛らしい表情を浮かべた瞬である。行くことを前提にして話を進めようとしたのは翔一郎だった。
「何でもっと早く言ってくれないんだよ、嵐。俺も当然誘ってくれるんだろうな?」
「今、更衣室が蒸し暑いって先にお前らが出てった後に、斗音から話を聞いたんだよ。そしたらもうお前ら、慈恩としゃべってたじゃねえか」
 バスケ部員は剣道部と違ってシャワーなんて浴びられないので、それぞれにメンズ制汗剤を使用しているため、みんなして爽やかな香りをまとっている。
「よし、じゃあこうなったらその四日間はお互いの応援合戦だな」
 楽しそうに翔一郎が黒い瞳を輝かせる。瞬の大きな目もきらきらした。
「わあ、楽しくなりそうだぁ♪俺は試合には出られないしさ、もちろんバスケ部の応援は一生懸命するけど、物足りないと思ってたんだよね。俺、慈恩の勇姿、公式試合で見るのは初めてだよ」
「そうだな。なんだかんだ言ったって、練習とかあるし、試合とか見に行けないんだよな。俺も初めてだ」
「去年の全国大会は確か九州で、なかなか応援にも行けなかったんだよな」
 斗音はもちろん応援に行ったが、そのときの感動はなかなか味わえるものではなかった。ただ、今年は、慈恩と斗音の間には、大きくなるばかりのわだかまりが横たわっていた。互いにどう考えているのか、本音はどこにあるのか、探ろうとすればするほど、よそよそしいすれ違いが増えていた。
「名古屋から豊川まで、どれくらいかかるの?」
 無邪気に瞬が首をかしげる。嵐は携帯を取り出した。彼は携帯を許可されている一人である。
「えーと、九時に試合が始まるとして・・・・・・名古屋から豊川まで電車を使って、約一時間十五分。駅から、会場って近いのか?」
 乗換案内で調べながら、慈恩に珍しい色の瞳から視線を送る。
「確か車で豊川駅から二十分くらいだったと思う。ホテルも駅の近くで、バスで十五分くらいだって言ってたし」
「ふうん、じゃあ朝七時にホテルを出れば、十分間に合うな。片道千五百円くらい」
 翔一郎はちょっと肩をすくめた。
「よかった、バスケと剣道両方出てて。これで片方だけだったら、新幹線で片道一万くらいかかっちまうし、なかなか行けねえよな」
「ほんとだね」
 くすっと笑って斗音が相槌を打つ。高校生にしてみれば、その往復は結構大変な額になる。
「じゃあさ、泊まるところも考えたほうがいいんだ?一応慈恩は四日五日とホテルだよな。俺たちも前日から入るから、三日は泊まるところ押さえてあるみたいだけど、それ以降は勝てば泊まるけど勝たなきゃ帰るんだからな。泊まるところ、学校が押さえてくれるんなら、要望出してみようか」
 翔一郎が提案すると、嵐がうなずいて笑った。
「やってみる価値はあるかもな。つまり、五日は俺たちも慈恩たちの近くに部屋を取ってもらう。ただし、勝ったら、ってことだろ?四日は勝てば反省とかもあるだろうからさ。慈恩は自腹になるけど、俺たちと一緒に来て三日に泊まれるといいよな。朝早いし、愛知県までったって近くはないからな。で、個人戦が終わったら俺らは名古屋に帰って二回戦に備え、慈恩は打ち上げと。剣道の個人戦は時間がかかるから、その日まで泊まりらしいし、羽目外せるよなあ。次の朝早いからほどほどにしとけよ。俺、校長に掛け合ってみる」
 何だかすごいことを言っている嵐だが、彼は本当に特別であった。高校に通いながら、仕事を持っている。しかもそれは秘密裏のもので、給料は国から支払われているらしい。それは高校側も認めている、と言うより、国のある機関からお達しがあったらしく、校長だけがその仕事内容を知っているらしい。その仕事はいつ入るかも分からないから、彼は携帯電話も許されているのである。
 如月は受験にそれほどこだわらず、生徒の自主性を重んじるので、三年生は引退してからもよく部活の練習に顔を出して、後輩たちの相手を務めたりする。慈恩あたりは近藤にそうしてもらわないと、腕が鈍ってしまうだろう。
 とはいえ、近藤部長は少し寂しがるかもしれないな、と慈恩は思った。一緒にこんな大きな大会に参加することは、同じ大学にでも進学しない限り有り得ないだろう。きっと少しでも自分と過ごしたいと思っているに違いない。嵐たちの計画でいくと、一緒にいられるはずの四日五日六日のうち、少なくとも五日は彼らと行動を共にすることになるだろう。
「斗音も、しっかり養生しとかなきゃね」
 華やかに笑みを浮かべて、瞬が斗音に微笑みかけた。地区予選のメンバーの中に、瞬は含まれていなかった。瞬自身、自分にそれほど力があるとも思っていないので、あっけらかんとしたものである。斗音はスタメンではなかったが、毎試合短い時間でチームに加勢をしていた。顧問の先生も部長も、斗音の身体のことは人一倍気を遣っていたし、それでも斗音は使いたいと思わせるプレイヤーでもあったのだ。
「うん。・・・・・・気をつけるよ」
 ちょっと翳りを含んだ微笑みを、斗音は返した。
「何だよ、元気ないな。インターハイのレギュラーなんだぜ。もっと胸張っていいと思うぞ」

 翔一郎が斗音の肩を景気よくたたいたが、その表情は大して明るくはならなかった。

   ***

 その翌日、午前一杯の部活を終えて、慈恩は初めて自分の方から絢音に連絡を取った。インターハイに臨むに当たって、今のままの精神状態では、みんなの期待を裏切る結果になりかねないと思い、その禍根を取り除けるものなら取り除き、しっかり話をして心を決めておきたいと思ったからだった。絢音はもちろん、大喜びで会うことを約束してくれた。
 いつもの店で、だいぶ慣れた高級料理のランチを取りながら、慈恩は切り出した。
「先日の失礼な態度を許してください。激するとあまり周りを考えられなくて、斗音とも醜いやり取りをしてしまいました。すみません」
 まずは、前回この人たちの前で斗音と言い争い、養子の話を丁寧な言葉遣いではありながら、かなり手厳しく撥ねつけたことを謝る。すると絢音はまるで子供のようにひどくかぶりを振って、大きな漆黒の瞳に涙のベールをかけた。
「何をおっしゃるの?あれから私は悔やんで悔やんでずいぶん泣きましたわ。あなた方を、こんな醜い九条家の私情に巻き込んでしまって、ひどく傷つけてしまって・・・・・・。全ては私たち夫婦が共にありたいというわがままから生まれたことだったのに・・・・・・謝るべきはこちらです」
 半泣きの声に、慈恩は苦笑する。
「泣かないでください。俺もずっと考えていました。あの時はにべもなく断りましたが、斗音は俺が必要とされるところに行くべきだっていう主張を変えないし、あなた方が俺たちに提示してくださった条件は、俺たちには申し訳ないくらい贅沢なもので・・・・・・」
 言うことの重大さに、食べ物が喉を通らない。慈恩はやわらかな若鶏のクリームソース煮を無理やり喉に流し込んだ。
「・・・・・・・・・・・・俺、斗音が大事です。今までずっと、あいつのために生きてきたようなもんだったから・・・・・・。だけど、その斗音が俺を束縛したくないと言い、俺の人生をしっかり考えて欲しいと言うんです。俺は束縛されてきたつもりなんてなかったのに、あいつにとっては俺があいつのためにと思うこと、行動すること、全てが引け目に感じることで、俺が傍にいることであいつを苦しめている部分があって・・・・・・。俺がいなくても平気だと・・・・・・。斗音はそうはっきり言ったんです。あいつは俺に必要性を感じていない・・・・・・」
 絢音は思わずフォークとナイフを置いて、まじまじと慈恩を見た。
「そんな・・・・・・貴方たちは私から見ても、いつもお互いを思いやっている素晴らしい関係ですわ。必要性を感じないなんて、そんなこと絶対にないと思います」
 その台詞が、自分たちの目的のためには決して有効に働かないということは分かっていながらも、絢音は言わずにいられなかった。椎名兄弟は、互いを思いやるあまりに互いの真意を測り切れずにいるのだ。そして、恐らく二人ともがそのすれ違いに苦しんでいる。
 慈恩は翳りのある笑みを浮かべた。
「俺、こんなに斗音の気持ちが解らなくなったのは初めてで・・・・・・。俺もそう思えたらどんなに楽かと思うんです。でも、どんなに言葉を掛けても、斗音の気持ちは変わらないんです。俺はあいつの判断が信頼できるものだと思っています。そして、何より斗音が望むのなら、俺はあいつから離れることを選択すべきだと・・・・・・そう考えるようになりました」
「・・・・・・慈恩さん・・・・・・」
 若鶏の皿が空にならないうちに、鯛の香草グリル焼きが運ばれてきた。ウエイターが丁寧に皿を置いて立ち去るのを見届けてから、慈恩は改めて絢音の漆黒の瞳を見た。
「だから今日は、養子として九条に入ることを前提に、具体的なお話を聞かせて頂きたくて、お呼びしました」
 焦点を合わせていた絢音の瞳が、たちまち透明な膜に覆われ、照明をきらきらと反射した。と思った瞬間に、その透明な膜が溢れて頬を転がり落ちる。
「・・・・・・い、いいのですか・・・・・・?こ・・・・・・こんな・・・わたくし達で・・・・・・・・・・・・」
 ポケットからブルーの縁取りが美しいハンカチを取り出して、慈恩はそっと絢音に差し出した。
「・・・・・・そう、考えています。まだよく分かっていない部分もありますから、それを今日聞かせて頂いた上で、はっきりと決めたいと思っています」
 差し出された大きな手からハンカチを受け取り、絢音はこぼれる涙の量を倍増させた。
「・・・・・・ええ・・・・・・お、お話・・・・・・させて・・・・・・もらいますわ・・・・・・」
 言ったものの、絢音の涙は一向に収まらず、慈恩は己の存在が、斗音の言ったとおりどれだけ強く求められていたのかを実感した。
 結局絢音がまともに話せなくなってしまったので、せっかくの高級料理もそこそこに、九条の家まで行って、雅成も合わせて三人で話すことになった。絢音が車を呼ぶと、前回紹介された三神が、一目見て高級車だとわかる大きくて黒い車でやってきた。
「お待たせしました、絢音様」

 泣いているらしい絢音に怪訝そうな顔をするが、絢音が何でもないと頼りない言葉と手振りで説明すると、すぐに納得して、慈恩にも頭を下げた。
「椎名様、どうぞ」
 言って後部座席のドアを開ける。
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
「いいえ」
 わざわざ返事をして微笑する。礼儀のしっかりした青年のようだ。
 ゆったりしたシートに身を預けて、慈恩は初めて、そうとは知らないままに、生まれた家の門をくぐったのだった。
 連絡を受けて会社を早退してきた雅成が、居間で妻と客人を迎えた。
「・・・・・・ようこそ、慈恩くん。さあ、掛けてくれ」
 慈恩はあっけに取られながら、勧められた豪奢な生地でできたソファに腰かけた。大体門をくぐってから、車で走るほどの距離が邸内にあるなんて、こんな高級住宅地では有り得ない。立派な玄関を経て、洋風の居間には落ち着きと気品を備えた調度品、大理石とヒノキを贅沢に使った柱やテーブル。外観が比較的和風だったので、まさかその中に洋館のような部屋が存在するとは思わなかったし、その部屋の広さや豪華なペルシャ絨毯の大きさ、立派なグランドピアノにシャンデリアなど、目が眩みそうなものばかりだったのだ。
(これは確かに、金銭感覚がおかしくなるのも分かる気がする)
 しばらくして上品そうな中年の女性が、細やかで上品な模様の薄い陶器のティーカップとポットを運んできて、香り高い紅茶を目の前で淹れてくれた。
「紹介しよう。彼女は沢村水那さん。今は私たちの身の回りの世話をしてくれているんだ。三神と一緒に椎名家に行ってもらおうと思ってる人だよ」
 雅成は言って、沢村に視線を移した。
「こちらは椎名慈恩くん。先日話したように、もしかしたら今度貴女に行ってもらうかもしれない家のご主人の弟さんだ」
 控えめそうな女性は丁寧に頭を下げた。
「沢村と申します。もしお勤めさせていただけることになりましたら、その時はよろしくお願いいたします」
「あの、こちらこそ」
「こちら、アールグレイの紅茶でございます。どうぞごゆっくりなさってくださいませ」
 どこまでも丁寧に言って、沢村は下がった。
「あの人は、絶対にプライベートに関心を持ったり立ち入ろうとしたりしない人だよ。仕事と割り切っているからね。そういう意味で、とても信頼のおける人なんだ。家事一般が趣味で、料理やお菓子作りも大好きって言う、根っからの家政婦さんだ」
 雅成が優しい口調で言う。慈恩が漆黒の瞳を向けると、微笑んだ表情がその視線を受け止めた。
「すまなかったね。絢音がみっともないところを見せて。今日は時間、あるのかい?ぜひゆっくりしていってくれ」
「はい、ありがとうございます」
 絢音を促して慈恩の対側に座らせ、その隣に雅成が腰を下ろした。
「まずはお礼を言わなくちゃならない。あれだけ君たちに嫌な思いをさせたにも関わらず、君は九条に養子に来ることを考えてくれた。それだけでも、僕たちは感謝の気持ちで一杯だ」
 そう言う雅成の瞳も、微かに潤んでいる。
「九条に養子に来ることになったら、具体的にどうなるかってことだったよね。と言っても、僕たちが考えているのは先日言った通りなんだけど」
 まだしゃくりあげる絢音の背を優しくなでながら、雅成が話し始めた。まずは戸籍が変わって、九条を名乗ることになること。この九条の家で暮らすこと。慈恩に求める九条夫妻の条件はそれだけだった。
「僕たちは今の君がとても好きなんだ。だから、何も変わってもらう必要はないと思う。ただ、ここでは義祖父・・・・・・君にとっては曾おじい様に当たる人が、一番の権力者だ。あの人が君に何か望むことがあると、僕たちもよほどのことがなければ賛成せざるを得ない。それだけは・・・・・覚えておいてくれ」
 慈恩は黙ってうなずいた。どんな人かは知らないが、斗音の存在を否定するようなことを言った人だ。少なくとも慈恩の印象は最悪である。ちょっとでも無茶なことを言ったら、養子の件は白紙に戻すと脅しをかけてやろう、と密かに心に決めた。
「それから、斗音くんの件だけど、後見人という形で公にはしないが、保険、学費、生活費、土地や家の維持費なんかも全部、斗音くんが社会人として自分でそれらをまかなえるようになるまで、九条で保障したい。もちろん返してもらうことなんて考えてない。椎名家の財産は、君たちのご両親が君たちの将来のために残されたものだから、それはいざというときまで残しておかなくちゃ」
 ね、と微笑む雅成は、本当に包み込むような優しさがあった。例え一目惚れするタイプではなくても、しばらく一緒にいたら、彼のことがきっと好きになるだろう。絢音が、この夫と別れたくないと強く願うわけが、慈恩にはよく分かった。
 前回説明してもらった通り、三神と沢村を椎名家に派遣すること、もちろん九条が雇う使用人なので、九条でその給料は支払うことも付け加えられた。
「でも、そうなるとここで三神さんたちがなさっていた分、新たに誰かを雇うことになるのではありませんか?」
 結局それも九条家の負担になるのではないかと、慈恩はハラハラする。
「いや、代わりになる家政婦や運転手なんて、九条にくさるほどいるよ。私たちはあまりたくさん使用人をつけたくなかったから、二人だけ私たちのためにつけているだけだ。余ってる人たちにいくらでも仕事はしてもらえるさ。ああ、それから」
 雅成は少し声を低めた。
「ここは三世帯住宅みたいに僕たち夫婦とお義父さん、お義母さん、それからおじい様と、部屋で住み分けしてる。この洋風の西屋は僕たち、現在当主のお義父さんたちが母屋、おじい様が離れの対屋という感じだ。ちなみに住み込みで働く使用人たちの部屋は大体東屋になってるんだよ。それで、夕食だけは家族が母屋でそろってとることになってる。この西屋だけでもかなり部屋があるから、君が来てくれることになったら好きな部屋を使ってくれればいい。三つくらいは君専用の部屋になると思うよ」
 三つって。と、思わず心の中で慈恩は突っ込んだ。ひとつで十分だと思うのだが。しかもどうせすごく広い部屋なのだろうから。
 そう思った時、部屋の外で小さな悲鳴が上がり、三人が同時にドアに視線を送った。そのドアが、三人の目の前で勢いよく開く。
「絢音さんっ!例の子が来てるって、本当ですの?!」
 大人しくしていれば気品の欠片も漂いそうだが、切羽詰っている表情は、少々お嬢様言葉であること以外、一般的なおばさんとなんら変わりないという感じの女性が勢いよくなだれ込んできた。その後ろで沢村がしりもちをついているのが見えた。
「叔母様!?いきなり何ですの?人としてモラルに欠ける行動なんじゃございませんこと?」
 すっくと立ち上がったのは、今まで感激のあまり涙ぐんでいた絢音だった。手厳しい言葉に、逆に慈恩が驚く。可愛らしいだけではないということは、彼女を素行の悪い連中から助けたときから知っていたが、改めてそんな気性の持ち主でもあるということを実感する。そして、もうひとつ脳裏にかすめる記憶。
(おば・・・・・・)

 確か、先走って斗音に余計なことを話したというのが、『おば』ではなかっただろうか。もちろん『おば』なんて親類は、一種類ではないし、たくさんいるのだろうが。
「あら、もしかしてこの方・・・・・・が・・・・・・?」
 絢音の詰問をあっさりと受け流して、中年の女性はじろじろと慈恩をぶしつけに眺めた。
「素敵な子じゃないの。写真で見たよりずっとスマートでかっこいいわ。これで優秀だっていうんだから、もうこれは九条を継いでもらうしかありませんわ」
 主観だけで自分のしゃべりたいことだけをしゃべる。その辺は、恥を忘れた品のないおばさんそのものだ。慈恩は失礼とは思いながらも、わずかに凛々しい眉をひそめた。
「叔母様!出て行ってくださいませんか。今大事なお話をしているところです」
 絢音の美しい眉もきりきりと吊り上っている。かなり怒りモードのようだ。しかし、次の一言が絢音と雅成の感情に二つのドライアイスを投げ込んだ。
「何おっしゃってますの?わたくし、お父様に頼まれてあなた方をお連れしに来たんですわ。絢音さんの子が来てるって聞いて、飛んで来たら、丁度母屋に来てらっしゃったお父様が、あなた方夫婦とその子を連れて来いって。だからわざわざ出向きましたのに」
 慈恩が訝しげに、招かれざるべき人物に目を向けた。

(・・・・・・・・・・・・何だって?今のは・・・・・・ただの言葉のあやか?)
 慈恩の心の中で、しっくり来ない表現が含まれていた。一瞬気のせいかとも思ったが、確かに自分の認識とずれている部分があった。

「分かりましたわ、叔母様。すぐに行きますと、おじい様にお伝えくださいますか」
 突き放すような言い方だった。今すぐに美弥子を出て行かせようとする絢音の気持ちが、全面に出ていた。その雰囲気を感じて、美弥子はややたじろいだ。そして、それに背を押されるようにしながら、何か言い訳がましいことを口の中でつぶやきながら、ちらちらと慈恩を振り返りつつ、部屋を出て行った。
「お義祖父様、今年でもう八十三になられるんだけど、ほんとお元気で・・・・・・厳格でいらっしゃるから、もしかして厳しいことをおっしゃるかもしれないけど、君はまだ九条に入ると決めたわけじゃないんだ。そんなに気にすることないからね」
 明らかに困惑した顔ではあったが、それでも優しさを忘れない雅成の言葉だった。慈恩は小さくうなずいた。
 絢音と雅成は不安げな瞳を交し合った。
「大丈夫だよ。何が何でも僕らで慈恩くんを守ろう。それが僕らにできる唯一のことだ」

 決意の目のまま、雅成は微笑した。それに勇気付けられたように、絢音もうなずいた。

 五分後、母屋の客間に通された慈恩は、完全に白髪で、品のある落ち着いた薄い茶色の羽織袴を着た老人と、先ほどの喋らなければ品を備えているように見える女性と、それと同じくらいの年齢であろうと思われる、絢音によく似た漆黒の瞳と黒くてやわらかい髪に自然なパーマをあてた、気品のある女性、その隣にやや気の弱そうな半分白髪の男性の四人と顔を合わせた。
「よく来てくださった。まあ、掛けなさい」
 白髪の老人が落ち着いた声で言ったので、慈恩は勧められるままに、これまた高級そうなソファに腰かけた。その隣に絢音と雅成が座る。
「君が、椎名慈恩くんだな。初にお目にかかる。わしは九条重盛。このうちの前当主だが、今の当主が頼りないのでこの歳でまだでしゃばっておる」
 威厳というものが人の皮をかぶったかのような重盛に、慈恩は知らず、頭を下げる。これは確かに、何人も逆らわせない雰囲気を持っている、と感じた。
 その重盛が、その場にいた絢音の母の貴美枝、父であり現当主の智満、貴美枝の妹である美弥子を順に紹介してから、一息ついて本題に入った。
「今回、絢音が君を引き取りたいと言い出して、さぞ驚いただろう。だが、わしらもそれには大賛成だった。君はもう、十七年ほども兄としてともに暮らしてきた斗音という少年から聞いているだろうが」
 そこまで重盛が話した途端、雅成が口を挟んだ。
「お義祖父様、失礼ながら申し上げます。まだ慈恩くんは、彼から何も。何も聞いてはいないのです。私たちも、今ようやく話を始めたばかりで、まだ重要なこと、何も慈恩くんは知りません。お願いいたします。私たちからゆっくり話をさせてください」
 明らかにつじつまが合わなかった。先ほど、大体の話は終えていたはずなのに、この雅成の慌てぶりはおかしいし、重盛の言い回しも慈恩の感覚を逆なでするような違和感があった。それに加えて先ほどの、絢音の叔母に当たる女性が言った言葉。全てがひとつのことを指しているように、慈恩には思えた。そしてそれは、慈恩の心の奥底を、凍りつかせた。
(そんな・・・・・・まさかそんなこと・・・・・・!)
 斗音から何を聞いているだろうと言うのだ。斗音が知っていたことは、これなのか。それであれほど自分がここに来ることを勧めたのか。そう考えると、完全につじつまが合うではないか。
「雅成くん。今はわしが話をしておるのだが、少々出すぎた真似だと思わんか」
 冷然とした声が雅成を直撃した。絢音が思わず身体を前にずらす。
「おじい様、お聞きください。まだ話していないことがございます。私たちの口から、それはいずれ慈恩さんに伝えたいと考えています。でも今は・・・・・・今はまだその話ができる段階ではありません。お願いです。まだ今日は、慈恩さんは、養子のことを考える上でお話を聞きに来てくださっただけなんです」
 その必死さは、尚更慈恩の中で、不安に満ちた確信を導いた。うつむいて、きり、と歯を食いしばった。
(斗音・・・・・・・・・・・・お前が聞いたのは、このことだったんだな。ずっと物憂げな顔をしていたのは・・・・・・・・・・・・俺たちは、双子でも兄弟でもなかったと知っていたからだったんだ)
「・・・・・・もう、いいです。九条さん、雅成さん」
 慈恩にいつも九条さんと呼ばれていた絢音は、雅成と一瞬顔を見合わせ、夫と同時に、うつむいてシャツの上に出していたクロスを握り締めたわが子を見つめた。
「・・・・・・・・・・・・慈恩・・・・・・さん・・・?」
 絢音の漆黒の瞳が潤んだ。雅成は静かに肩を落とした。
「・・・・・・・・・・・・すまない」
 重々しいしゃがれ声が、その空気を打ち破った。
「なんだ、まだ絢音の本当の子供だと、話しておらなんだのか。そんなふうに下手に隠そうとしても、結局最後には突きつけることになると言うただろうに。ましてこの子は絢音、お前に似て非常に聡いようだな」
 重盛は慈恩をじっと見つめて、笑みを浮かべた。
「艶のある黒い髪、黒くて長い睫毛に黒い瞳、凛と通った鼻筋。絢音、お前によく似ている。何もしていなくても若武者のように見える凛々しさも、間違いない九条の血だ。あの時は絢音が若すぎたゆえ、体裁を重んじたが、今こうして再び九条の跡継ぎをこの家に迎えることができるのだ。終わりよければ全てよしというわけだ」
「・・・・・・体裁・・・・・・?」
 思わず聞き返した慈恩に、美弥子が大いにうなずく。
「そうですわ。あの時は本当に大変だったんですのよ。まだ絢音さん、十七でしたでしょう?高校生でそんな」
「やめてください叔母様!」
 悲鳴が上がった。絢音だった。その白い肌が、白さを通り越して蒼白になっていた。
「いい加減になさってください。どこまでわたくしたちの邪魔をなさったら気が済まれるのですか!」
「絢音!」

「絢音さん!」
 厳しすぎる言葉に、雅成と貴美枝が同時に絢音を諫めた。二人とも、重盛の前での絢音の立場を心配したのだが、昂ぶった感情を愛する夫にまで否定された彼女は、大きな黒い瞳を涙に濡らし、それでも間に合わず次々と頬に透明な雫を伝わせた。
「どうして・・・・・・この子をこれ以上苦しめないで欲しいと思って、何がいけないのですか?どうしてこの子の気持ちを私たちから離してしまうようなことをおっしゃるんですか。やっとここまで来たのに・・・・・・やっとこの子が私たちの元に来ることを考えてくれるまでになったのに・・・・・・!」
 それだけ言うと、絢音は白くて華奢な両手で顔を覆い、嗚咽をこぼしながら本格的に泣き始めてしまった。
「絢音・・・・・・」
 雅成が哀しげな瞳でそっと妻を見つめ、優しく肩を抱いた。逆に美弥子は、自分に突きつけられた台詞に、ありありと不満を表していた。
「全くいくつになられてもお若いのね。大体あの時どれだけ九条家の親族が心配して困惑したか、ご存じないわけじゃないでしょう?あの数学の先生も先生で、全く恥知らずな方でしたわ」
 仕返しとばかりに話し始めた美弥子に、絢音は涙でぐしょぐしょになった顔を上げ、なお抗議する。
「叔母様!やめて、この子の前でそんな話しないでください!」
 やれやれ、とばかりに美弥子は肩をすくめる。本家の権力を持つ姉の娘に、彼女は恐らくずっと嫉妬心を抱いていたに違いない、と、初対面の慈恩にさえ思わせるような態度だった。
「全く、慈恩さんがお産まれになった時も、お父様に怒鳴られるまで絢音さんの傍にいさせて欲しいってしつこくおっしゃってましたわ。絢音さんは絢音さんで、九条のことを考えて、産まれた子を何とかしなくてはとする親類に向かって、泣き叫んで赤ちゃんを放そうとなさらないし、ほんと、手を焼いたんですのよ。覚えてらっしゃるでしょう?」
「やめてやめてやめて・・・・・・!」
 激しく頭を横に振って、絢音が叫ぶ。見かねて雅成が美弥子に厳しい視線を向ける。
「そのことで絢音がどれだけつらい思いをしてきたか、貴女もご存知だったと思っておりました」
 はっと唇を噛んだのは貴美枝で、うつむいたのは智満だった。二人とも九条の体面をおもんぱかることに精一杯で、自分の娘がしでかした不祥事を何とか揉み消そうと奔走したあとで、娘が心を失った人形のようになってしまっていることに気づいたのだ。
 しかしながら、雅成が一番精神的に杭を打ち込みたかった人物は、杭を杭とも思わなかったらしい。ある程度歳を経た女性で、人の気持ちより自分のプライド、というように、したたかになるタイプは確かにいる。どうやら美弥子はそういう人種だったようだ。雅成の台詞に、更に気を悪くしたらしく、顔をしかめた。
「そっちこそ、こっちの気持ちをお考えになったことがありまして?本家の跡継ぎとして婿入りしながら、跡継ぎをお作りになることもできずに、かといって遠慮もなさらずに九条にいらっしゃるから、どれほど私たちがヤキモキしたことか」
 雅成の眉根がぎゅっと寄せられる。
「今こうして慈恩さんが生きて九条に戻ろうとしているのは、せめて九条家の血を引く子供が死んでしまうようなことがないようにと考えた上で、産婦人科の病院にあの赤ちゃんを置いてきた私たちの判断が正しかったからですわ。それを感謝こそされ、なぜ全て私たちが悪いように言われなければならないんですの?」
「美弥子、口を慎め」
 厳しい声は、九条の一番の権力者の口から放たれた。名指しされたオバサンはびくっと固まる。
「絢音の暴言もみっともないが、言っていいことと悪いこともあろう。慈恩くんがいるのだ。もう少し配慮が必要だ」

 醜い光景だった。押し黙った美弥子に貴美枝に智満。重々しく溜息をつく重盛。そんな中で泣きじゃくる絢音を優しく抱き、優しく背をなでながらもつらそうに顔を歪める雅成。絢音の悲痛な泣き声が、ひときわ大きくなった。
『・・・・・・私はこれまでの人生で、失くしてはいけないものを失くしてしまいました。それを埋められるのは、私たちの中では貴方しかいないんです・・・・・・』
 慈恩の記憶の中で、絢音の言葉が甦っていた。それがどういう意味だったのか、今なら全部分かる。絢音と雅成にとって、自分は最後の砦だったのだ。そして、十七年前に失われてしまった幸福だったのだ。彼女たちは時間を掛けて自分の存在をつきとめ、さりげなさを装って、今の自分と斗音の生活をなるべく壊さないように気をつけて来たに違いない。それを、この醜い九条家の内側を見られたことで、きっと失うに違いないと感じて、絢音は泣いているのだろう。
(この人が・・・・・・・・・・・・俺の本当の母親・・・・・・)
 斗音が大事だった。斗音は恐らくこのことを知っていたから、自分を九条に戻そうと考えたのだ。この二人を救うことは、自分にしかできないと知っていたから。それを思って、斗音にできるだけのことをしようとしてくれたこの夫妻。こんなに苦しんで、つらい思いをしてきた人たち。
 そしてもうひとつ理解したことがあった。慈恩は握り締めていたクロスが、自分の体温で暖められているのを感じながら、そっと目を閉じた。
『・・・・・・これは私たちと・・・・・・あなたをつなぐものよ・・・・・・。これからはあなたが・・・・・・私の代わりに・・・・・・斗音を・・・・・・支えてあげてね・・・・・・』
 死の直前にそう言って母が託したこの十字架のネックレス。斗音に渡さずに自分に渡したのは、自分にだけ血のつながりがなかったから。信心深かった美しい母が、ずっと斗音のために祈りを込めていたそのクロスを、自分を家族の一員であるという証と、だからこそ斗音を支えて欲しいのだと、そういう思いを込めて託したのだ。そうとも知らず、ずっと形見だと思い、誓いの証だと思い、肌身離さず大切にしてきたのだけれど。
(・・・・・・母さん・・・・・・父さん・・・・・・置き去りにされていた俺を引き取って、本当に自分の子供のように育ててくれた。決して斗音との愛情の差なんてなかった。・・・・・・ありがとう。その気持ち、忘れない)

 斗音の想い、絢音と雅成の想い。どれも自分のわがままひとつで無駄にしてしまうことはできない。育ててくれた椎名の母から託された思いはあるけれど、今はその斗音自身が自分にこうすることを望んでいる。
 
慈恩は深い溜息とも、吐息ともつかないものをこぼし、その反動で大きく息を吸った。
(嘘でも本音でも、俺がいなくても平気だと言えてしまう斗音の傍にいて、斗音に引け目を感じさせ続けるくらいなら・・・・・・)
「・・・・・・曾おじい様。俺は・・・・・・九条さん、いえ、絢音さんを母と、そして雅成さんを父と・・・・・・呼べると思います」
(俺がここで必要とされているのなら、俺はここでこの人たちを少しでも支えたい)
「・・・・・・・・・・・・絢音さんと雅成さんがそれで喜んでくれるのなら」
 決して強くはないが、低く艶のある声が大きな客間の空気を振動させた。その振動が、鼓膜から脳に信号として発信されたものをキャッチしたはずの絢音と雅成は、一瞬呆然と慈恩を見つめた。絢音の両親も、意外そうな表情を隠しきれなかった。美弥子は最初からそれを前提としていたらしく、まあ当たり前だといわんばかりにうなずいた。重盛も、満足そうにうなずいた。
「なんと、器量のある子だ。今の醜い内情を見ても、絢音たち夫婦のことを思いやれるとは。頼もしい跡継ぎができたものだ。では、早速越して来るといい。それから貴美枝、彼の転入手続きを取ってやってくれ」
 貴美枝がうなずくのと、絢音たち夫婦がぎょっとして重盛の顔を見るのと、慈恩が一瞬呼吸を止めたのが同時だった。
「ちょっと待ってください、おじい様!転入って、どういうことですか!?」
 切羽詰ったような絢音に、重盛は溜息をついた。

「九条の人間が公立高校に通っているわけにはいかんだろう。それくらい、九条の人間なら気がつかぬようでは困る。如月で執行部を務めるくらいの人間だ。どんな有名私立にだって入れよう。慶応大学付属の伝統ある桜花高校で転入試験を受けなさい。夏休み明けからはそちらに通うのだ」
「そんな・・・・・・!慈恩くんには慈恩くんの今までの生活がありますし、友達もいるでしょうし、部活の仲間だって・・・・・・それに執行部も途中で抜けてしまうなんて無理ですよ。彼は学校を動かす一人なのです」
 真っ先に異を唱えたのは雅成だった。絢音も必死に口を添える。
「そうです。それに斗音くんにも・・・・・・せめて学校では斗音くんに会えるようにしてあげてください。今まで兄弟として暮らしてきた子なんです。いきなり全く別の生活なんて、あまりにも残酷です!」
 しかし重盛は全く取り合おうとしない。
「何を言っておるか。友達など、これだけの人柄を持っておれば、どこでも自然にできよう。部活も今まで以上に指導者に恵まれた、素晴らしい環境で腕を磨ける。執行部に関しては、如月高校ともなれば、それくらいの交代要員はいくらでもあるに違いない。斗音という少年が気になるのであれば、彼にも転入手続きを取ってやればよい」
(斗音は・・・・・・斗音は絶対に如月を出るとは言わない)
 絶望的な思いを、慈恩は噛み締める。養子になると返事をした以上、この実の曽祖父の言うことを拒むわけにはいかない。この存在の強さを、慈恩はこのひと時でずいぶん感じた。
「あれだけ醜いところを見ながら、それでもせっかく養子に来てくれると言ってくれたのに、そのような身勝手な九条の私情を押し付けるのは、あまりにもひどい仕打ちです。そんな条件、私どもは慈恩くんに提示しておりませんでした。公立でも如月は屈指の有名進学校です。決して人に恥じるところなどありません」
 発言権の弱いはずの雅成は、それでも、必死の抵抗を続けた。慈恩を守ると言ったその言葉を、彼は打ち砕けんばかりの体当たりで実行しようとしていた。
「高校時代の友人とは大切なものだ。だからこそ、考えなければならない。あまり俗世間に浸かっていると、平安から続くこの貴族の家を継ぐ人間として、ふさわしい見識が持てなくなる。一般的なものはもう十分に学んだであろう。次はこういう旧家や高貴な家柄の世界も知るべきなのだ。もちろん、友人もだ。お前なら理解できるな?慈恩」
 その重盛の言い方に、既に九条家の一員として自分が扱われていることを、慈恩は知った。慈恩の心の中で、きらきら輝く斗音の姿、頼れる親友の嵐、翔一郎、瞬、一緒に如月祭を創り上げている執行部の面々、毎日汗にまみれてともに部長のしごきに耐えてきた剣道部の仲間たち、そして、自分に、後を継いでくれる人間として期待し、想いを寄せている近藤の姿が浮かんだ。
(みんなの・・・・・・近藤さんの期待を、俺は裏切らなきゃならないのか)
 整った形の唇をぎゅっと噛む。離れたくなかった。期待を裏切りたくなかった。思わず声に出す。
「理解は、できます。でも・・・・・・でも、もし叶うのなら、如月を卒業したいです」
 曽祖父の白い眉根が寄り、眉間に深いしわを刻んだ。
「お前の気持ちも、分からんではない。だが、本来なら九条本家の跡継ぎともあろう者は、最初からそういった私立の学園に通っているのだ。大学は能力によって国立私立どこにでも行って構わんが、それはこういう世界を十分に知って、その知識がある上での話だ。お前の場合、それがこれからの一年半しかないのだ。まして如月で卒業など、絶対にさせられん。理解できるのなら、自分を優先にするものではない」
「おじい様!この子の気持ちが分かるとおっしゃるのなら、九条を優先にしないでください。こんなつらい決断をしてくれた子に、私たちはできるだけのことをしてあげなくてはならないと思います。この子がそう望むのなら、頑張って受験して受かった学校を最後まで・・・・・・!」
 祖父の発言を逆手に取った絢音を、貴美枝が小声で制止する。
「絢音さん!あまりわがままを言うものではありません」

 その小声の配慮を絢音は叫び声で撥ね返した。
「わがままを言っているのはどっちですか!全部全部九条の家の都合を押し付けているのが、お分かりになりませんか!」
「絢音!全てはお前の十七年前の過ちから狂ってきているのだぞ。お前が若すぎる母親になったがために、慈恩は俗世間で育ち、今こうしてつらい思いをせねばならんのだ。全てはお前の過ちが発端なのだ!」
 今度は重盛が激した声を絢音にたたきつけた。絢音は激しくかぶりを振って涙をこぼした。
「過ちなどではありません!わたくしは今でも後悔はしておりません!後悔しているのは、九条という家の名に負けて、この子を手放してしまったことだけです!」
 絢音の衝撃的な言葉に、思わず貴美枝が立ち上がって手を上げた。ぴしっ、と、瞬間的に肌を打つ鋭い音が響いた。絢音をかばって、貴美枝の平手打ちの軌道上に割って入った雅成が、打たれた左手の甲をさする。
「もうやめませんか。こんな・・・・・・こんな醜いやりとりは。慈恩くんには私たちからもう少し話をします。それでも彼が、今の高校を辞めたくないというのであれば、もう自由にしてあげてください。そこまで彼を束縛する権利は、九条にいる誰にもありはしません。彼を元の世界に返して・・・・・・私が九条を出ます」

 静かな決意の声。その場にいる誰もが、重盛さえも、息を飲んだ。絢音が一瞬と、もうひとつ一瞬の沈黙を重ねた次の瞬間に、泣き崩れた。

 西屋に戻った三人の空気は、これ以上なく重かった。
「すまなかった、慈恩くん。僕の力が足りないばかりに・・・・・・嫌な思いをさせてしまったね」
 ソファでまだ声を立てて泣き続ける絢音を優しくあやすようになでながら、雅成が寂しそうに微笑んだ。
「・・・・・・絢音を愛してるし、別れたくなんてなかったから、結局君を利用することになってしまった。だけど・・・・・・だけど僕は、慈恩くん。君が大好きだよ。だからもうこれ以上、君を巻き込みたくない」
 迷う瞳を上げると、雅成は小さくうなずいた。
「僕が九条を出る。それであの人たちが納得するのなら・・・・・・。君が如月高校で大切な仲間と、斗音くんと創り上げてきた絆や生活。それがどんなに大切なものか、僕は分かるつもりだ。君は学校のことや斗音くんのことを話す時、いつも本当に楽しそうだったから。絢音も、解ってくれるね?」
 絢音の泣き声の悲痛さに輪がかかる。絢音は全てを失ってしまうのだ。今度は息子だけでなく、夫まで。それでも息子のことを思えば、解らないと、わがままを言葉に表すこともできなかった。
(どうして俺なんだろう。俺の判断ひとつで、この二人を不幸の底にたたき込んでしまう)
 慈恩は苦しさを吐息で吐き出した。大事な斗音、大事な友人たち、尊敬する先輩たち。離れたくない。でも、卒業するまでの一年半を自分が選べば、この二人は夫婦という、生涯ただ一人と決めた相手との別離を余儀なくされる。その痛みは、一体どれほどのものだろう。この二人の絆がどれほど深いものかは、あの場にいた慈恩にひしひしと伝わってきていた。それでも雅成は、自分のためにそれを手放そうとしている。
(跡継ぎができなくて離婚するなら、九条さんはまた別の人と結婚させられる。そうなったら、この二人は会うことすら許されない)
 慈恩は天井を仰いだ。自分は、会おうと思えばいつでも彼らに会える。毎日を一緒に過ごせなくなっても、彼らは必ず、いつでも自分を快く仲間として迎えてくれる。それは確信だった。そして、きっと斗音でも、この二人を不幸にしてしまうことを望みはしないだろう。
 自分は、けりをつけにここに来たのだ、と慈恩は自身に言い聞かせた。全国大会に臨むにあたって、色々抱え込んだままベストを尽くせずに終わるような、悔いを残したくなかった。だから、心の中のもの全てに、決着をつけるために。
(斗音、俺はこの人たちを見捨てることができない。お前には、嵐も翔一郎も瞬もついてる。けど、この人たちには本当に俺しかいない。・・・・・・・・・・・・俺さえ自分の気持ちを抑えれば、全てがうまくいく)
『俺だってもう高二だよ。一人でやってけるって』
(大丈夫・・・・・・・・・・・・斗音は、今まで以上にあいつらが大事にしてくれる)
 未練は大いにある。でも、慈恩はそれを捨てることを覚悟した。もう一度、母の形見を強く握り締め、ぐっと顎を引いて、雅成を見つめる。
「雅成さん・・・・・・いえ、お父さん。俺は、如月を辞めます」
 慈恩の視線の先で、雅成が目を瞠った。そして、つらそうに首を横に振る。
「慈恩くん。君が無理をする必要はないよ。ここまでのいきさつだけだって、十分に君はつらい思いをさせたんだ。これ以上君に犠牲を払わせるわけにはいかない」
 静かに首を振って、慈恩は続けた。
「彼らとこれで切れてしまうほどの絆だとは、思っていません。だから・・・・・・俺が九条に入ります」
 静かに、だがはっきりとそう告げる。泣きじゃくっていた絢音が顔を上げた。目が合った瞬間に、まだこれほど隠していたのかと思うほどの涙を溢れさせた。
「・・・・・・ごめんね・・・・・・そんなこと言わせて、ごめんね慈恩・・・・・・・・・・・・」
 それだけ言って、また雅成の胸に顔をうずめてしまう。切なそうにその髪を撫でながら、雅成は寂しそうに、でも優しい視線を慈恩に向けた。
「いいんだよ。私も、覚悟は決めた。絢音と別れても、心はつながっている。だから、君は如月を卒業して、いいんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
 凛々しい瞳は静かで、自分の言葉を覆すつもりがないことをうかがわせる。雅成は不安や申し訳なさが混濁した複雑な表情を浮かべた。
「・・・・・・本当に?本当にそれでいいのかい?」
「・・・はい」
「・・・・・・・・・・・・そうか・・・・・・」
 九条慈恩の父親となる人は、震える唇でそうつぶやいて、静かに目を伏せた。すっとその頬を、透明な雫が滑った。
「・・・・・・・・・ありがとう・・・・・・」

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